畳敷きの大広間には、人数は少ないものの、四肢や胴体の一部が欠損するという重症の隊員達が横たわっていた。
邪魔にならないよう入口の脇に立ち、無陀野は看護師と共に患者の元へ走って行くスズを見つめる。
そこで初めて彼女の血の能力を目の当たりにした無陀野は、珍しく驚きの表情を見せる。
「(これ程の能力だったのか。報告で聞いていた以上だな。だが…)」
すぐにその顔を曇らせると、何かを考え込むように目を閉じた。
そして治療が終わったスズに労いの言葉をかけた後、彼は隣の和室に花魁坂を呼び出すのだった。
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「スズちゃんの能力見た?すごかったでしょ!」
「あぁ、お前がスカウトしたのも納得だ」
「でしょ〜?で、どうしたの?こんなとこ呼び出して」
「…スズを俺に預けろ」
「へ?」
「俺は明日ここを出発する。その時にあいつも一緒に東京へ連れて行く」
「いやいやいや!何言ってんの、急に!そんなのダメだよ!」
「理由は」
そう問われ、花魁坂は京都支部にスズが必要な理由を次々に挙げていく。
援護部隊の要であること、自分の秘書としても必要であること、看護師達も頼りにしていること…
いつもの冷静な態度で話を聞いている無陀野に対し、花魁坂はだんだんとヒートアップしてきた。
「それにご両親が許さないよ。ここで働いてもらう時も、かなり説得が必要だったんだ。なのに転校して東京に行くなんて…」
「両親への挨拶は当然する。納得いくまで話をするつもりだ」
「……何で急に?あと1年待って、高校生になるタイミングで羅刹に行くんじゃダメなの?」
「最初は俺もそう思ってた。だがあの能力を実際に見て考えが変わった」
「?」
「あれは鬼だけじゃなく、桃太郎にも有効な力だ」
「えっ…」
「お前の力と違って、スズの場合は体内に血を入れない。つまり鬼だろうが桃だろうが関係なく治療できる。
治癒能力がない桃にとって、スズの力は喉から手が出るほど欲しいはずだ」
「確かに…それは、そうだね」
「スズの力は治癒に全振りだ。血で桃と戦うことはできない。ならせめて、体術だけでも鍛えないと抵抗する術がない」
「それをダノッチが教えるってこと?」
「そうだ。それに最初に比べて、スズの鬼の力は強くなってきてるんじゃないか?このまま放置すれば、両親を危険な目に遭わせる可能性もある」
"鍛えるなら少しでも早い方がいい"
最後にそう言って、無陀野は花魁坂を見つめる。
彼らしい無駄のない話しっぷりと説得力満点な内容に、花魁坂はぐうの音も出ない。
傍に置いておきたいけれど、両親だけでなく、何より彼女自身が危険な目に遭うのは絶対に避けたい…
そんなことを思いながら、花魁坂は静かに言葉を紡ぐ。
「…俺が見つけて、スカウトして、医学のこととかも教えたりして……秘書としてもすごく優秀でさ、助けてもらってばっかりなんだ」
「そうか」
「…俺のお気に入りの子なんだよ」
「…」
「でもだからこそ、絶対に傷ついて欲しくない。彼女が死ぬとこなんて…想像したくもない」
「…じゃあ答えは決まったな」
「うん」
30分後、スズ本人も同じ話を無陀野から伝えられる。
京都支部で働くことになった時よりもハードルの高い話であり、やはり戸惑いは大きかった。
だが無陀野が根気よく落ち着いて話をするうちに、スズの顔には少しずつ明るさが戻ってくる。
そして…
「…分かりました。自分の身を守るために必要なことなら、両親も納得してくれると思います」
「そうだな。俺からもしっかり話はする」
「はい。…あの」
「ん?」
「私、本当に何も出来ないんですけど…大丈夫ですか?」
「大丈夫かどうかはお前次第だ。厳しくなることは覚悟しておけよ」
「うっ…了解です。面倒かけまくりますけど、よろしくお願いします!!」
「あぁ、よろしく」
部屋の外でやり取りを聞いていた花魁坂は、少し笑みを見せる。
だがその奥には、やはり寂しさが見え隠れしていて…
"ちゃんと送り出せるかな…"と苦笑しながら、その場を後にするのだった。
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