翌日、無陀野は花魁坂と共に木下家を訪ねる。

そこでも同じ話をし、スズ自身も納得している旨を伝えた。

事前に娘から話を聞いていたのか、話し合いは思っていたよりもスムーズに進む。

そして最終的に、両親もしっかり納得した上でスズの東京進出が決定した。


午後一の新幹線で出発するということで、京都支部の面々は慌ててスズとの最後の時間を過ごした。

今生の別れではないのだが、スズは先程から終始鼻をすすっている。

それからしばらく別れの会は続き、もう新幹線に間に合わないというタイミングで無陀野が声をかけた。


「スズ、そろそろ限界だ。行くぞ」

「うぅっ…はい…皆さん、本当にお世話になりました…!」

「気をつけてね。何かあったらすぐ連絡して?」

「京夜先生…ありがとうございました!!」

「こちらこそありがとう。…ほら〜そんなに泣かないの。またすぐ会えるから。ねっ?」

「はい…!」

「…最後にお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「もちろんです!」

「俺も…"スズ"って呼んでいい?」


予想外のお願いだったが、ダメな理由が何一つないので、スズは快諾する。

何で今?と聞きたそうなスズの視線を何とか避け、花魁坂は彼女を送り出した。

あとから出会った同期が呼び捨てなのに、自分が"ちゃん"付けなことに納得いかなかったから…という子供っぽい理由は誰にも言えないだろう。


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東京での生活も、京都と同じようにやはり慌ただしい。

日々支部に運ばれてくる患者の治療に当たり、その合間に無陀野を相手に体術の特訓。

さらに京都での経験を買われ、無陀野の秘書としての仕事も追加された。

何に対しても誠実に一生懸命取り組む姿勢はここでも健在で、その働きっぷりに無陀野の信頼も日々増していた。


「スズ、これから練馬に行くぞ」

「はい!練馬かぁ…私行くの初めてです」

「初めて行くとこの方が多いだろ」

「あははっ!確かに。打ち合わせですか?」

「あぁ。それと今日は会わせたい奴がいる」

「お〜!どんな方ですか?」

「偵察部隊だ。お前のことでちょっと相談したくてな」

「私のこと…了解です。詳しい話は向こうで、ですね!」

「そうだ」


東京に来て半年が経ち、効率重視の無陀野の性格をだいぶ理解してきたスズ。

ここで話して、練馬でまた同じ話をするのは非効率だと思い、いろいろ聞きたいことを我慢したのだ。

そんなスズの配慮のお陰で、無陀野は以前よりもストレスなく生活ができている。

滅多に表情が変わらない彼だが、スズの前では少し穏やかになるとか、ならないとか…!



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