練馬区偵察部隊のアジトに到着したスズと無陀野。

中に入るとすぐに声をかけてくる人物がいた。


「無陀野さん、とお話にあった…」

「あぁ。今日は世話になる」

「いえいえ。初めまして、並木度馨です」

「は、初めまして!木下スズです!」

「ふふっ。そんなに緊張しなくていいよ。隊長はたぶんもうすぐ…」

「来たか、無陀野。久しぶりだな。で、そっちが例のガキか」

「初めまして!木下「スズ、だろ。声がでけーから聞こえてたよ」

「はっ…!すみません!」

「打ち合わせまでまだ時間がある。先にこいつの話をしたい」

「へいへい。相変わらず無駄話しねーな」


偵察部隊隊長の淀川に連れられ、スズ達は近くの会議室へ通される。

雑談もなくいきなり本題に入った無陀野は、スズの今後について相談を持ちかけるのだった。


「スズの能力や俺が気にかけていることに関しては、事前に伝えていた通りだ。その上で話がしたい」

「桃に狙われるって話だな。まぁ確かにこの能力ならいつ生け捕りにされてもおかしくねぇな」

「(い、生け捕り…!怖っ…)」

「血の特性上、スズは戦闘部隊と行動を共にすることが多くなる。その時、桃の数によってはスズの護衛が手薄になる可能性が出てくる。

 下っ端の連中なら、今鍛えてる体術でどうにかなるだろうが、隊長・副隊長はまず無理だ」

「そういう場合に身を守る方法がないか…ってことだな」

「俺はお前の能力が使えないかと思っている」

「俺の?…あーそもそも見えなくするってことか」


淀川の能力は、自分の血を舐めて姿を消すというものだ。

見えれば狙われる。なら見えなくして、最初から桃の視界に入れなければいい…これが無陀野の考えた案だった。

一見良さそうに見えるが、この方法には1つ大きな問題がある。


「俺以外の奴を消すためには、俺が傍にいないとダメだ」

「そこをどうにかできないかという相談だ」

「無茶苦茶言うね〜無陀野君は」

「皆さんのお手を煩わせてすみません…」

「でもそれが出来れば、スズちゃんの安全はかなり守られますよね。前線にいても、アジトで待機してても、見つかればまず狙われるんですから」

「何にしても、んなすぐ答えが出るもんじゃねぇよ」

「打ち合わせの時間ですね…そっちは僕が出るんで、隊長はスズちゃんの方お願いします」

「スズ、俺も行ってくる。不安なことはちゃんと伝えるんだぞ」

「分かりました…!いってらっしゃい」


2人が部屋を出ていき、場にはスズと淀川が残された。

今さっき会ったばかりの隊長クラスの人間と何を話せばいいのかと頭を悩ませていたスズだったが、沈黙は意外にも向こうが破った。


「…無陀野って、お前の前ではいつもあんな感じか?」

「え?そうですね…いつもと変わらないと思います。それがどうかしましたか?」

「いや、だとしたら相当丸くなったな〜と思って。戦闘部隊の元エリートだとは思えねぇよ」

「そうだったんですか…!」

「あぁ。それはそれはすごい活躍だったよ。いつか聞いてみろ」

「はい!…あ、淀川さん」

「ん?って、何か名字で呼ばれんの変な感じするから下で呼べ」

「あ、じゃあ…真澄さん。今腕に傷ありませんでした?大丈夫ですか?」


淀川が少し伸びをした時に、彼の腕に傷を発見したスズ。

一瞬しか見えなかったが、生々しくて痛そうだったので思わず声をかけたのだった。


「(傷見られたのなんて何年振りだ?油断したな…)あーこれか。古傷だから気にすんな」

「痛くないなら良かったです。…でもそうですよね。偵察部隊の方ですもんね…」

「!」

「京都支部にいた時、戦闘部隊の方はもちろんですけど、それと同じぐらい偵察部隊の方もたくさん運ばれてきたんです。

 中には戦闘部隊より損傷が酷い方もいて…そういう方を治す度に、最前線はここなんだなって思い知らされました」


そう言って少し下を向いたスズの頭に、淀川はポンと優しく手を置いた。

突然のことにビックリして顔を上げるスズと同じぐらい、彼自身もまた自分の行動に驚いたようで…

すぐに手を引っ込めると、スズからスッと視線を外した。


「真澄さん…?」

「…偵察部隊が最前線だって言う奴は、お前が思ってるよりもずっと少ねぇんだよ。どうしたって戦闘部隊が目立つからな」

「そう、なんですか?あんなに危ないことしてるのに?」

「それを分かってねぇんだよ。だから……ちょっと嬉しかっただけだ。悪かったな」

「いえ、全然!むしろもっと撫でて下さってもいいですよ?」

「ばーか、調子乗んな。……思いついた」

「へ?何をですか?」

「お前、少しここで待ってろ。絶対動くなよ。迷うから」


淀川が出て行き、スズはついに部屋に1人になってしまった。

散歩でもと思ったが、彼が言った通り確実に迷子になるだろうから、スズは大人しく待つことに。

それから1時間、淀川は戻って来なかった。

待ちくたびれたスズが机に突っ伏して寝息を立てていると、ようやく隊長が戻ってくる。


「おい、スズ。起きろ」

「…ん〜?……あ、真澄さん!すいません、寝てた!」

「これを持ってろ」

「わっ、可愛いネックレス!でもトップについてる瓶の中に何か入ってません?」

「俺だ」

「へ?」

「さっき言っただろ。俺以外を消す時は、俺が傍にいないとダメだって。だからそれが俺だ」

「分からん、分からん!どういうことですか?」

「その瓶の中には、特殊な方法で凍らせた俺の血が入ってる。それを持ってれば、俺が傍にいるのと同じ効果が得られるわけだ」

「真澄さんが傍にいるから、私も消えるってことですか?」

「そうだ。でも今のままじゃ使えねぇ。必要な時は自分の血をかけて溶かせ」


それからさらに淀川は注意事項を付け足す。

これはスズ専用だから、他の鬼の血では溶けないこと。

消えている時間は、淀川本人が傍にいる時の半分になること。

使い過ぎると劣化するため、1年に1回は淀川の血を入れ替えに来る必要があること。

そこまで一気に言うと、淀川はスズの背後に回り、ネックレスを装着してやるのだった。


「…これでよし。なくすなよ」

「なくしませんよ!ありがとうございます!!」


満面の笑みを向けてくるスズに、淀川の顔も少し穏やかになる。

その後打ち合わせから戻った無陀野と並木度にも説明をし、無事に練馬での任務が完了した。



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