それから1週間後、無陀野組は東京にいた。

東京で働く各部隊の見学のため…あくまで学びに来ていることを忘れてはいけない。

緊張感を持って行動すべきだ。


「なんだよー!東京でも光が丘かよ!埼玉に片足突っ込んでる、ギリ東京じゃん!新宿とかならブラっと買い物できんのに!」

「おい、遊びに来たのか?何しに来た」

「学びに来ました…」

「あと光が丘を馬鹿にするな。埼玉も」

「すんません…」

「ただでさえ京都の一件で変装と偽名が必要なんだ」


遊びモードの一ノ瀬を𠮟りつける無陀野の姿は、いつもの黒髪ではなく、スズが選んだ金髪のカツラを被っている。

名前もコンドウという偽名で呼ぶよう、東京に来る前に生徒たちへ強く言い聞かせていた。

そしてその生徒たちもまた、それぞれ自分たちで選んだカツラと名前で変装している。


「でもその髪型似合ってますよ、コンドウ先生!」

「なら良かった。ハルもあまり違和感がないな」

「そうですか?自分では何か変な感じで、落ち着かないです」

「そんなことはない。…似合ってる」


そう言って"ハル"ことスズの髪を優しく触る無陀野。

ここでも無自覚っぷりは健在で、動揺しているのはスズだけだった。

と、不意に彼女の耳元に口を寄せると、無陀野は声のトーンを落として声をかけた。


「スズ、分かってると思うが…お前は特に気をつけろ。外では何があっても変装をとくなよ」

「はい」

「知らない奴に声をかけられても相手にしないこと。返事もしなくていい」

「それは…ちょっと過保護過ぎませんか?」

「大事な存在だと言っただろ」

「!」

「言うこと聞けるな?」

「は、はい…!」


スズの返事に少し口角を上げた無陀野は、彼女の頭にポンと手を乗せる。

それから再び生徒たちの方へ目を向けると、この後の流れについて話し始めた。


「今日はこのままホテルで休む。明日朝一から弾丸で見学だ。覚悟しとけ。

 京都のせいで色んな予定がおじゃんだ…全く…それとナツ、明日見学後ここで採血受けに行け」

「採血?なんで?」

「お前の血を調べるんだ。あとハル、真澄が会いたがってる。お前も途中から別行動だ」

「分かりました!」


話が終わると、無陀野は生徒たちを引き連れホテルに向けて出発した。

自分だけ"採血に行く"という面倒なことを言いつけられた一ノ瀬は、ガックリと肩を落としながらグループの最後尾を歩いていた。

その途中、提灯の淡い光に誘われるように目を向けた先で、"光が丘公園祭り"の文字を発見する。

祭りと言えば夏をイメージするが、秋の風を感じ始めた10月でもやっていることに興味を覚える一ノ瀬。

先程の無陀野の話では、この後はもう帰ってる寝るだけで予定はない。

そして自分の少し前方を大好きな天使が1人で歩いている。

これだけの条件が揃えば、彼が考えることは1つだ。


「スズ…!」

「! 名前気をつけて…って、ん?」


本名で呼ばれたことに焦って振り返るスズに、一ノ瀬は無言で祭りの方を指さした。

一瞬パっと明るい笑顔を見せるスズだったが、すぐに表情を引き締め首を横に振る。

先程無陀野から気をつけるよう言われたばかり…遊びに行くわけにはいかない。


「俺が絶対傍にいるから!スズから1秒も離れない!約束する!!」

「いや、でも…!」

「誰かが話しかけてきても、俺が全部対応する。スズは黙って俺の後ろにいれば、先生の言いつけ破ってねぇじゃん!」

「んー…まぁそうなんだけど…」

「それとも祭り嫌い?行きたくない?」

「そんなことない!しばらく行ってないし、正直…めちゃくちゃ行きたいよ」

「なら!!」

「でも人混みがすごいし…ちょっと怖い、かな…!」


そう言って少し俯くスズを静かに見つめていたかと思えば、おもむろに彼女の手を取る一ノ瀬。

驚いて顔を上げるスズにニカッと笑いかけると、一ノ瀬はそのままその手をギュっと握り締めた。


「俺がずっとこうやって手繋いでる」

「!」

「絶対離さないし、誰も近寄らせない。俺がスズのこと守るから!」

「四季…」

「俺…スズと祭り行きたい。ダメ?」


握った手に力を込め、一ノ瀬は真っ直ぐな目をスズに向けた。

瞳の奥に見え隠れするウルウルした子犬のような何かを感じ取り、スズの母性本能が刺激される。

一ノ瀬の一途な想いに胸を打たれたスズは、"名前に気をつけられるなら…少しだけ"と了承の意を返した。



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