当初の予定通り、本日無陀野組は東京の各部隊を見学して回ることになっている。

朝も早くから行動を開始した一行はまず、"桃源書店"と書かれた古本屋の前へと到着した。


「まず最初に練馬区の偵察部隊で話を聞かせてもらう」

「つってもここ古本屋じゃん。ここなん?」

「いいから行くぞ。誰かみたいに勝手にどこか行くなよ」


無陀野がそう言って視線を向ける先には、気まずそうに小さくなっているスズと一ノ瀬がいた。





第21話 もしも





昨日ホテルへ帰ってから、1時間以上に渡り無陀野の説教を喰らった2人。

揃って頭に大きなこぶを作り、並んで正座している姿は、傍から見ればとても微笑ましいものだった。

だがその代償は大きく、翌日になっても2人はズキズキと痛む頭に悩まされていた。


「スズ、マジでごめんな。俺のせいで…」

「…あの状況で、私は断ることもできた。でもそうじゃなくて、四季とお祭りに行く方を自分で選んだの。だから四季は何も悪くない」

「うー…マジで天使過ぎんだけど…!」

「ふふっ。言ってくれるの四季ぐらいだけどね」

「ナツ、ハル!何してる、早く来い」

「へ〜い」「はい!」


古本屋に入った無陀野は、迷うことなく3冊の本を選びカウンターへと持っていく。

そして合言葉のようなやり取りを終えると、店主の表情がふっと柔らかくなった。


「無陀野さんご一行ですね。練馬に入った時点で、情報は入っています。皆さん本を物色しながら聞いてください」

「京都みてぇにすげぇ感じかと思った」

「あそこは本部ですから。皆偵察に出ているし、これくらいの広さで十分なんですよ。それに重要な情報は地下に保管されています」


店主に扮した偵察部隊の並木度は、それから簡潔に自部隊の仕事内容について話し始める。

全く興味を示さない者、自分の能力的にここかなと心が動かされている者…生徒たちの反応は実に様々だった。

既に援護部隊への入隊が決まっているスズは、そんな同期たちを穏やかに見守っていた。


「…と、こんな感じですかね。次は援護部隊でしたっけ」

「あぁ。ハルを任せていいか?」

「もちろんです」

「ハル」


小さいながらもよく通る声で偽名を呼ぶと、スズは明るく返事をして駆け寄ってくる。

面識のあるスズと並木度が軽く挨拶を交わすのを待ち、無陀野はこの後の彼女の動きを手短に伝えた。


「オマエはここで離脱して、真澄のところに行け」

「あ、はい!」

「この後ナツも採血のために途中で抜ける。オマエの方が終わったら、ナツと合流して帰って来ること」

「分かりました!」

「昨日言ったことが伝わっていないようだから、もう一度言うぞ」

「うっ…」

「移動時は常に細心の注意を払え。絶対に1人では行動するなよ」

「はい」

「もしどうしても1人になりそうなら、必ず俺に連絡を入れろ。すぐ迎えに行く」

「え、そんな!わざわざ申し訳ないです…!」

「俺が後悔しないためだ」

「! ありがとうございます…!」

「ん。…またホテルでな、スズ」

「は、はい…!」

「じゃあこいつのこと頼む」

「はい、任せてください」


スズの耳元に口を寄せ、本名で呼びかける無陀野。

それから不意の出来事にドキドキしている教え子の頭にポンと手を置くと、最後に並木度へ声をかけ場を後にするのだった。



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