「よし、じゃあ僕たちも行こっか」

「はい!あ、でもお店はいいんですか?」

「古本屋はカモフラージュだからね。買いに来る人なんて滅多にいないんだ。それに…」

「ん?」

「真澄隊長が待ちかねてるから急がないと」


店のシャッターを閉めながら、並木度はそう言って笑顔を見せた。

そしてつられて笑顔になるスズと共に、本来のアジトへ向かって歩き出す。

久しぶりの再会で話に花が咲く2人だったが、並木度が一番気になっていたのはスズの担任についてだった。


「ふ〜…アジト内に入ったし、もう偽名じゃなくていいよね」

「そうしていただけると助かります…!何か偽名って慣れなくて」

「ふふっ、そうだよね。…そういえば無陀野さんってさ、普段からスズちゃんに対してあんな感じ?」

「はい。いつも通り…だったと思います。何か変でした?」

「(そうなんだ〜まだ自覚はなさそうだけど、あれはだいぶ気に入ってるね)いや、変とかじゃないんだ。ただ少し雰囲気が柔らかかったなと思ってね」

「前に真澄さんも同じようなこと言ってたんですけど、そんなに違いますか?」

「うん。無陀野さんを昔から知ってる人が見たら驚くと思う」

「そうなんだ〜」

「きっとあの感じになるのは、スズちゃんの前でだけなのかもね」


自分の発言に目を丸くするスズを、楽しそうな表情で見つめる並木度。

そうこうしているうちに、ようやく隊長殿の執務室へと到着するのだった。


「隊長、並木度です」

「入れ」

「遅くなってすみません。お待ちかねのスズちゃん到着しましたよ」

「…別に待ってね「真澄さん!お久しぶりです!」


自分の言葉を遮るように並木度の背後からひょこっと顔を出したスズに、隊長殿の表情は途端に穏やかになる。

その変化にニヤニヤする部下をひと睨みすると、淀川は追い払うように手を動かした。


「お前これから任務だろ。さっさと行ってこい」

「分かってますよ。…2人きりだからって、手出しちゃダメですよ?」

「出すわけねぇだろ。早く行け」

「はーい。じゃあスズちゃんまたね」

「ありがとうございました!気をつけて!」


並木度を送り出すと、淀川はとても応接セットとは言えないような簡素な机とイスにスズを誘った。

そして机を挟んで向かい側に座ると、彼女が話す近況に耳を傾けるのだった。

時折口元に笑みを浮かべながら聞いていた淀川は、話がひと段落したタイミングで、不意にスズが首に下げているネックレスのトップに触れる。


「…で、こっちの方はどうだ?役に立ってるか?」

「もう大活躍です!この前も危ない時に、ぴゃっと消えてやりましたよ!」

「……ちょっと待て。消えてやりましたって、敵の目の前で消えたのか?」

「はい!え、ダメ…でしたか?」

「お前それじゃあ、自分に姿を消す力があるってアピールしてるようなもんだろ。向こうが何かしらの対策してきたら、すぐ見つかっちまうぞ?」

「! た、確かに…でもじゃあどうしたら…」

「例えば追いかけられてたとしたら、入り組んだ路地とかに入った瞬間に姿を消す。そうすりゃ相手は消えたのか、逃げられたのか分かんねぇだろ?」

「なるほど!それならこの血のこともバレなくて済むってことですね!」

「そうだ」


目から鱗!のような表情で、常に持ち歩いているミニノートに今のアドバイスを書き込むスズ。

自分の話を素直に受け入れ、身につけようとする彼女を、淀川は頬杖をつきながら微笑ましく見つめる。


「…お前さ、やっぱ練馬来いよ」

「へ?」

「そういうスキルとか考え方、一から教えてやるから」


立ち上がり、少し身を乗り出して距離を縮める淀川に、スズの心臓は鼓動を速める。

テンパって言葉が出てこない彼女を尻目に、淀川は更に近づこうとしたのだが…

このタイミングで彼のスマホが音を立てる。

軽く舌打ちをしてから中身を確認すれば、それは同期の彼からだった。


「…スズ、無陀野から盗聴器とか付けられてねぇよな?」

「え、ないと思いますけど…どうかしたんですか?」

「いや、何でもねぇ」


"スズを勧誘したら、二度とお前に会わせない"

彼女の担任である無陀野からのメールには、そう一言だけ書かれていた。

まるでどこかから見ているような見事なタイミングで届いたメールに、淀川は大きなため息をついた。


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それからスズと淀川は、いろいろな話をしながら久しぶりの再会を楽しむ。

スズの強い希望で練馬のアジト内を案内すれば、時間はあっという間に過ぎていった。

と、今度はスズのスマホが音を立てる。

"無人先生"という文字が表示された画面をタップすれば、いつも以上に緊張感のある声が届いた。


「もしもし、先生?」

『ハル、今どこにいる?』

「まだ練馬のアジトです」

『ということは、まだナツとは合流してないんだな。真澄は一緒か?』

「いえ、さっきまでは一緒だったんですけど、何か事件があったみたいで少し前に出かけて行きました」

『そうか。…その事件を発生させたのはうちだ』

「えっ。…何かあったんですね」

『あぁ、詳しい話はあとでする。とりあえずお前はそこにいろ』

「分かりました!先生たちは…?」

『大丈夫だ。すぐに合流できるようにする』

「はい。気をつけて…!」


皇后崎が引き起こした、とあるアクシデント。

これがまさか練馬の桃を相手取る大きな戦いの序章になるとは、誰も予想だにしていなかった。



to be continued...



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