視点は戻り、再び練馬区偵察部隊のアジト内。
いなくなった皇后崎をどうするかについて、未だ話し合いの真っ最中だ。
早速、じっとしていられないタイプの一ノ瀬が騒ぎ出す。
「いいかげん皇后崎捜しに行こうぜ!」
「確かに時間経過的に動くべきですね。戦闘部隊に応援要請しましょう」
「戦闘部隊は動かねぇぞ」
「お疲れ様です!真澄隊長」
「真澄さん!」
「スズ、さっきは1人にして悪かったな。大丈夫だったか?」
「はい!」
場に合流したのは、練馬区偵察部隊隊長・淀川真澄だ。
スズに一瞬向けた穏やかな表情をすぐにしまうと、淀川は淡々とした口調でさっきの続きを話し始める。
「大体書き置きしてんだ。どうなろうと自己責任だろ」
「おい!じゃあ見捨てんのかよ?」
「勝手な行動する奴は勝手に死ね」
「だから戦闘部隊動かさねぇのかよ!?ありえねぇぞ!」
「お前も周りに迷惑かけそうなタイプだな」
突っかかってくる一ノ瀬を軽くあしらいながら、同期である無陀野へと視線を向ける淀川。
"戦闘部隊が動かない理由は?"
淀川からの雑談には一切反応せず、無陀野は端的にそれだけを尋ねる。
相も変わらず余計な会話をしない同期に舌打ちしつつ、淀川は今までの調査結果を報告した。
現時点で分かっていることは3つ。
1.皇后崎は拉致された。
2.一般人が関与している。
3.練馬の桃太郎の仕業ではない。
「あいつ、一般人に拉致られたのかよ」
「あの皇后崎君を拉致するって結構大変だと思う。一般の人だとしたらよっぽどの手練れか、隙を突かれたか…」
「生徒拉致ったのは、関東ナッツ連合っつう半グレどもだ。さらうまでの手口は素人だが、姿の隠し方は多分桃が関与してる」
「やっぱり桃が絡んでるんじゃ…」
「半グレといえど、一般人巻き込むことは練馬の桃はやらねぇ。となると別の桃が動いてる可能性がある。しかもそいつは一般人を余裕で巻き込むカスだ」
「確かにそうなると、この地区の戦闘部隊は迂闊に動かせないな」
「そうですね。その間に何も起こらないっていう保証はないですし…」
ポンポンと進む話についていけず、戦闘部隊が動かせない理由が理解できない一ノ瀬に、並木度が優しく説明を加えた。
練馬の桃以外が関与しているとなると、もし戦闘部隊を動かした場合、練馬を守れる鬼が不在になる。
その隙を突いて練馬の桃が仕掛けてきたら、手薄になっている鬼側に多くの犠牲が出てしまうのだ。
「じゃあこっちも別の所から戦闘部隊を呼べばいいのでは?」
「その呼んだ部隊の本来の管轄は誰が守るんだ?鬼は桃と違って常時人手不足…んなことできねぇ。
けど今回は無陀野がいる。東京都の戦闘部隊でもエリートだった無陀野無人君が。
今でも思い出す時があるぜ?桃太郎100人の血の雨を降らせたあの時のお前を」
「先生って凄かったんだ。スズも前言ってたもんな」
「うん!私も何度も守ってもらったからね」
「好きだぜ、そういう話は」
「まぁ元エリートか。教員なんかなりやがって」
「その半グレについても調査済みだろ」
淀川や生徒たちの声が聞こえていないかのように、無陀野は冷静に事を進めて行く。
彼の問いかけに対し、偵察部隊隊長は"たまり場は特定済み。あとは踏み込むだけ"とこちらもエリートらしい言葉を返した。
そして先程の理由から戦闘部隊を動かせない分、今回は無陀野にその代わりを務めてもらうということも付け加えた。
「馨、お前が一緒につけ」
「わかりました」
「万が一に備えて救護班が欲しいが…スズはカウントしていいのか?」
「構わない。俺が傍にいる。行けるな、スズ?」
「はい、大丈夫です!」
「待てよ!俺らも行かせてくれよ!」
「ここで留守番なんかする気ねぇぞ?それじゃマジで何しに来たかわかんねぇだろ」
「は?何言ってんだ?現状留守番もできてねぇじゃねぇか。引っ込んでろ」
「いや、やらせよう」
「お前も冗談言うようになったのか?場数踏んでるスズとは違ぇんだぞ?」
「うちは普通の学校じゃない。実践を積ませた方が効率的だ」
「効率?知るかよ」
淀川のピリピリした空気を感じ、1人落ち着かない様子のスズ。
と、そこへ索敵が得意な遊摺部が手を上げる。
自分の能力が役に立てると思う…と。
偵察部隊志望の彼だったが、あとに続けた言葉が淀川の地雷を踏んだ。
「戦闘能力がないので、それくらいしか役に立てないと思いまして」
「! 遊摺部君…!」
「それくらい?戦わないならやれると思ってんのか?そんな覚悟でやってねぇんだよ、こっちは。
最前線で戦ってるのは偵察部隊だ。戦闘が始まりゃ確かに俺らはサポートだ。
けど最初に敵に接近して、時には接触して情報を得るのも俺らの仕事。
一歩ミスれば、よくてその場で殺されるか、最悪情報絞り取られて殺されるかだ。
そして俺たちは絶対に情報を吐いちゃいけねぇ。吐くくらいなら死を選ぶ。その覚悟がある奴が偵察部隊に入る。なのになんだ?お前は。
スズがいる医療部隊も、戦闘部隊も全ての隊員がそうだ。俺ら鬼に安全地帯なんかねぇ」
"鬼機関は全員命がけだ。その覚悟、テメェらにあんのか?"
遊摺部の胸倉を掴みながら偵察部隊の厳しい現実をぶつけた淀川は、最後にそう言って生徒たちを見渡す。
彼の気迫に気圧され冷や汗を流す遊摺部だったが、少し呼吸を整えると、決意の眼差しで言葉を発した。
「す…すみません…でも…役に立ちたくて羅刹学園に入りました…!死ぬ覚悟は…ずっと前からできてます!」
「つーか覚悟がなきゃ入学しねぇだろ。俺は戦って死ぬなら本望だ」
「カッコ悪い死に方はしたくない…」
「愛する人と死ねりゃいいわ」
「え…?えっと…私は死ぬのは怖いです…ただやれることをやりたいです…」
「んー俺は…死ぬ覚悟はできてる。けど、死なないために成長したい。だからやらせてくれ!断られても勝手にやるぞ!?いいのか!?」
「…」
「育成は大事な仕事の1つだ。鬼はいつも人手不足なんだろう?」
「…チッ!」
「大丈夫です、真澄さん。皆さんの背中は私が守ります。私がいる限り、誰も死なせません」
不意に聞こえた、決して大きくないスズの声。
だがその優しいトーンと温かい笑顔、そして何より彼女の強い想いは、その場にいる全員の心を包み込む。
スズをリスペクトしている一ノ瀬や矢颪はもちろん、他の同期たちの顔つきも穏やかなものに変わっていった。
もちろんそれは大人組も例外ではない。
1つ大きく息を吐いた淀川は、観念したように言葉を漏らす。
「…わかったよ。そんかわり、ガキだからって言い訳はさせねぇぞ」
「押忍!」「よっしゃ!」「ハイ!」
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