スズの後押しもあり、一ノ瀬たちも皇后崎救出作戦に参加できることになった。

初めて偵察部隊と一緒に行動するということもあり、無陀野は改めて任務の基本を生徒たちへ伝える。

戦闘・敵の排除を担当するのは、無陀野・一ノ瀬・矢颪・漣・手術岾。

偵察・突入のサポートを担当するのが、淀川・並木度・屏風ヶ浦・遊摺部だ。


「それじゃあ隊列はこうだ。2つの隊に分かれる。潜入や偵察以外で敵地に踏み込む時は、戦闘部隊主体となる。

 そこに偵察・医療が数人加わって隊を作る。覚えておけ」

「スズはどっち?」

「スズの能力については?」

「知ってる!京都にいる時、目の前で見た!」

「あの力は、負傷した鬼をすぐに治すことができる。だからスズは戦闘部隊の傍で待機するのが基本だ」

「ってことは俺らのチームってこと?」

「あぁ。医療部隊は普通サポート側につくから、スズみたいなパターンはかなりイレギュラーだ。

 話戻すぞ。優先すべきは皇后崎の救助だ。戦闘はできるだけ避けろ」

「変装はしねぇの?」

「敵地に行く以上、必要ない。いざという時、混乱を招く。服を用意する。すぐに着替えろ」


そう言って話を締めくくった無陀野の指示に従い、生徒たちは並木度が準備してくれた戦闘服へと着替えることになった。


------
----
--


5分後…

一足早く着替えを済ませたスズは、部屋を出てある人物を探す。

その人物は腕を組んだ状態で壁に寄りかかり、全員の支度が整うのを待っていた。

周りに人がいないのを確認しながら、スズはささっと彼の傍へと歩み寄る。


「真澄さん…」

「ん?あぁ、着替え終わったのか。どうした?」

「…まだ怒ってますか?」

「! …怒ってる。どうにかしろ」

「え、あ、謝罪と甘いものなら…ご提供、できます…!」

「どっちもいらねぇ。そんなのより…」

「?」

「ちょっと体貸せ」

「えっ…!」


胸の前で手をクロスして構えるスズに、淀川は"エロいこと考えてんじゃねぇよ"と鼻で笑う。

それからサッとスズの腕を取ると、そのまま近くの部屋に連れ込んだ。

普段会議室として使われているそこには、長机が四角になるように配置されている。

そのうちの1つの長机の上に座ると、ドア付近に立っていたスズをこちらへ呼ぶ淀川。

そして少し自分を見上げてくる彼女の肩に、そっと頭を乗せるのだった。


「!」

「…お前さ、ヤバいフェロモンでも出してんのか?」

「へ?いや、だ、出してないはず…です。何か臭いますか…?」

「ふっ、そうじゃねぇよ。…傍にいると疲れ飛ぶ」

「本当ですか?」


淀川からの思わぬ褒め言葉に、スズは嬉しそうに言葉を返す。

だがすぐにさっきのやり取りを思い出し、抑えたトーンで声をかけた。


「真澄さん…あの、さっきは…」

「気にすんな。そもそも怒ってねぇよ」

「はい…」

「…確かに前までは、あぁいうこと言われる度にイライラして、人とか物とかに当たりまくってた。

 でも1年前のあの日にお前と出会ってからは…不思議と何言われても平気になった」

「えっ!そう…なんですか?」

「あぁ。お前が俺らのこと分かってくれてるからな」


顔を上げた淀川は、スズと目線を合わせると珍しく穏やかな笑みを向けた。

初めて見る彼の表情に、スズの心臓は途端にドキドキとうるさくなる。

それを知ってか知らずか、淀川は落ち着いた声で言葉を続けた。


「自分のことを分かってくれてる奴がいるっつーのは嬉しいもんだ。だから俺はスズの存在にだいぶ救われてる。お前のお陰で、どんな状況でも前に進める」

「真澄さん…」

「俺からは何も返せねぇけど…お前にもしものことがあったら、何があっても必ず見つけて助け出す」

「!」

「俺の血が必要ならいくらでもくれてやるから、迷わずすぐ頼れ。いいな?」

「はい!」


偵察部隊隊長からの心強い言葉に、スズは安心したように明るく返事をする。

そして同時に、淀川から貰ったペンダントをギュっと握り締めるのだった。

そんな彼女の仕草に、淀川の中に眠る何かのスイッチが入る。

今なら同期の邪魔も入らない…目の前の少女をからかう絶好の機会だった。


「本人が目の前にいるときぐらい、俺の方触れよ」

「えっ…!」

「…嫌か?俺の汚ねぇ体触るの」

「! 真澄さんの体は汚くないです!!体の傷は…全部仲間を守るためでしょ?そんな真澄さんを、汚いなんて思いません!!」


そう言って淀川の手を握ったスズは、さっきまでの表情が嘘のように怒りを含んでいた。

てっきり"何言ってるんですか"と軽く返してくると思っていただけに、彼女のこの反応は淀川にとって予想外だった。


「冗談だ。お前がそんな風に思ってるなんて考えてない」

「…言っていいことと悪いことがあります」

「悪かった。ちょっとからかおうと思っただけだ」

「それでも…自分を傷つけるような言葉言わないでください…!」

「分かった。約束する」


淀川が握られている手に力を込めれば、スズは下を向いたまま少し首を縦に振った。

自分のために怒ったり、自分以上にショックを受けたような表情を見せるスズ。

そんな彼女の姿に、淀川は自分の気持ちが変わり始めていることに気づく。


「(あー…クソッ。マジかよ…一回りも下のガキだぞ?落ち着け。この感情は違う…こいつは妹みたいなポジションでいいんだ)」


ドンドンと溢れてくる感情を抑え込むように、淀川はスズにバレないよう深呼吸を繰り返す。

少しでも気を緩めれば、間違いなく手を出してしまう。

今目の前にある手を引いて、抱き寄せてしまう。

そしたらきっと…戻れなくなる。

最後にもう一度深呼吸をすると、淀川は声のトーンを変えて少女の名前を呼んだ。


「…なぁ、スズ」

「はい…」

「これ以上手握られてると、俺もエロい気持ちになっちまう」

「えっ!?っていうか、俺"も"って何ですか!私はなってませんから…!」


分かりやすくからかえば、パッと手を離したスズの顔と声は元通りになる。

その事実に安堵し、淀川はふっと笑みを見せた。

そうして一瞬静かになった部屋に、外の声が少し聞こえてくる。


"あれ?真澄隊長どこ行ったんだろ…"

"スズもいねぇんだけど!"


いろいろ起こりすぎて忘れていたが、今は救出作戦の出発前である。

いつまでもこのまったりした空気の中にいるわけにはいかない。

"行くか"とスズに声をかけた淀川は、部屋を出る前に今一度彼女の方を振り返った。


「スズ」

「はい!」

「…ありがとな」

「いえ…!」


ポンと頭を撫でられ、照れ臭そうにするスズを連れて部屋を出る。

と同時に自分へ向けられた言葉は、余韻の欠片もないうるさい程元気な声だった。


「あ、真澄隊長どこに…って、えっ」

「あー!!何でスズと一緒なんだよ!!」

「うるせぇ。ガキが野暮なこと聞いてんじゃねぇよ」

「何だよ、それー!!怪しいぞ!」

「四季、うるさい」

「全員揃ってるな。役職付きの隊員だけが本来着られる正装だ。気合い入れろよ」


"総員状況開始!"

その声を合図に、無陀野組+偵察部隊による救出作戦が開始された。



to be continued...



- 60 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ

第2章 目次へ

第3章 目次へ

第4章 目次へ

第5章 目次へ

第6章 目次へ

短編 目次へ

章選択画面へ

home