4人は月明りに照らされながら、ビルの屋上を飛ぶように駆け抜けていく。
唯一の女性であるスズも、その身のこなしやスピードは男性陣に引けを取らない。
と、そんな彼女が不意に走りながら自分の体をポンポンと叩き始める。
最後尾を走っていた無陀野が声をかければ、スズは申し訳なさそうな表情で話を始めた。
「スズ、どうした?」
「ちょっとスマホ忘れちゃったみたいで…」
「俺らが一緒だから問題ないだろ」
「そうかもしれないんですけど……いや、やっぱりビルすぐそこなので取ってきます!」
確かにさっきまでいたビルを出てからまだ数分であり、戻れない距離ではない。
だが万が一…ということもある。故に無陀野は簡単には許可を出せずにいた。
そんな彼の想いとは裏腹に、スズは止める間もなく来た道を戻るため方向転換をする。
「待て。1人では動くな」
「大丈夫です!すぐ追いつきますから!先行ってくださーい!」
「おい、スズ!」
「先生、スズどこ行ったの?」
「スマホを取りに行った。…とりあえず進むぞ」
スズのことはもちろん気にかかるが、こちらのミッションも時間との勝負。
ここは一旦彼女を信じ、無陀野は生徒たちに前進を命じるのだった。
だがそれから数分も経たぬうちに、雲行きが怪しくなる。
不穏な気配を感じた無陀野は、それが自分たちの敵であると瞬時に見抜く。
そしてその気配を感じる場所は、今しがたスズが向かった方面であった。
自分たちの敵、それはつまりスズを狙う人物ということ…
「皇后崎、四季…先に行け」
「先生は?」
「招かざる客だ」
「行っちゃったよ」
2人を残し、無陀野はあっという間に姿を消す。
やがて敵の気配が強くなってくるのに従い、もう1つ…大切な彼女の存在も感じるようになっていた。
「(スズ…少しだけ辛抱してろ)」
では、そのスズはと言えば…
光が丘公園にて、黒髪・色黒の目つきが悪い桃太郎の前で体育座り状態だった。
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遡ること15分前…
スマホを取りにビルへと向かっていたスズは、ふと近くに桃の気配を感じ動きを止める。
気づかれないように移動しようと、静かに足を踏み出した瞬間、彼女は桃太郎の細菌に取り囲まれていた。
いつの間にか閉じていた目を開ければ、自分が芝生の上に転がっているのが分かる。
「(え、ここどこ?)」
「よぉ。お前…木下スズだよな?」
座ったままキョロキョロと辺りを見回すスズだったが、その行動を遮るように男の声が聞こえてくる。
振り返った先には、少し笑みを浮かべた色黒の桃太郎が立っていた。
パっと見ただけで、彼が隊長・副隊長レベルの人物だということが分かる。
"ヤバイ…"と冷や汗を流すスズとは対照的に、目の前の桃は楽しそうに近づいてくると、ヤンキー座りで目線を合わせてきた。
「なぁ、そうだろ?」
「……いえ!ち、違い…ます」
「へぇ〜こんなに嘘つくの下手な奴っているんだな」
「う、嘘じゃないです!」
「じゃあ名前言ってみろ」
「え、あ、んー…忘れました!」
「もっとマシな嘘つけねーのか?…こっちにはお前の写真があんだよ」
「えっ…」
「でも写りがわりーから、本人かどうか確証はなかった。でも今までのお前の態度で確定だ。俺は桃角桜介。よろしくな、スズ」
「…スズ、って誰ですか?」
「もうそれは通用しねぇつってんだろ。諦めろ」
片手でスズの両頬を挟みながらそう言った桜介は、手を離すとその場にあぐらをかいて座った。
スズは少し彼から離れると、体を守るように体育座りをする。
「んな身構えなくても、手出したりしねぇよ」
「…」
「俺はお前の能力に興味がある。ケガ治せんだろ?」
「……まぁ」
「見せろ」
「嫌ですよ。そもそもどこもケガしてないじゃないですか」
「あ〜じゃあ今傷つくるから待ってろ」
「ダメです!何言ってんですか!」
「は?何で?」
「当たり前でしょ!治せる人間がいるからって、ケガしていい理由にはなりません!ましてや自分で傷つけるなんて絶対ダメ!」
思わず立ち上がり熱くなってしまったスズだが、ハッと我に返るとすぐに体育座りモードになった。
突然怒られたことに驚きながらも、桜介の表情にはまた楽しそうな笑みが浮かぶ。
さらにスズへの興味が増し、もっと近づこうと立ち上がった桜介だったが…
「それ以上、こいつに近づくな」
「! 無人先生…!」「来たか」
「…大丈夫だと言ってなかったか?」
「すみません…」
自分の元へ駆け寄って来たスズに対し、無陀野は落ち着いた声音で一言そう告げた。
しょぼくれて下を向く彼女を見つめる無陀野の表情からは、どんな感情も読み取れない。
だが不意にスズの顎に手を添えると、優しく持ち上げ視線を合わせる。
「ケガは?」
「平気です…!」
「ならいい」
「はい…」
「桃が光総合病院だ。あいつらのこと頼むぞ」
手を離し、耳元で口早にそう伝えた無陀野が纏う空気には、もう負の感情は含まれていなかった。
"はい!"と気合いの入った表情を見せるスズの頭をポンと叩いてから、彼は桜介と向かい合う。
その背後に、スズの姿はもうなくなっていた。
「何だよ、もうちょい話させろよ」
「…」
「随分大事にしてんだな」
「…誰だお前は」
「22部隊副隊長・桃角桜介」
「お前があいつと話をすることは二度とない」
「言ってろ。それより…俺と勝負しようぜ」
キレイな三日月の下で、2人きりの戦いが始まろうとしていた。
to be continued...
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