鬼の回復力で元気になった一ノ瀬を連れて、無陀野が校内を軽く案内する。
その間にスズは彼の制服を受け取るために事務室へと向かった。
そこで自分自身も私服であることを指摘され、慌てて制服に着替えると、集合場所である更衣室前へと走った。
第4話 粒揃い
「すみません!お待たせしました…!」
「何か不備でも…あぁ、着替えてきたのか」
「はい。私服だってことすっかり忘れてて…!あれ、四季は…?」
「トイレだ」
いつものように傘倒立で腕立て伏せをしていた無陀野は、息を整えるスズを穏やかに見つめる。
その視線に気づいた彼女が"どうしました?"と声をかければ、無陀野は筋トレをやめて彼女と向き合った。
そして不意にスズの頭にポンと手を乗せた。
「…無人先生?」
「今日で秘書がいなくなるのか」
「! 寂しがってくれてるんですか?」
「あぁ。秘書としてのお前が有能過ぎて、いないと思うとゾッとする」
「あははっ!そんなにお役に立ててたなら良かったです!でも何かあればいつでも言ってください。お手伝いしますから」
「ありがとな。よろしく頼む」
「はい!」
スズの元気な返事に、無陀野は少し口角を上げた。
いつもほぼ無表情の彼の笑顔は、鬼の世界ではかなり…いや、とてつもなく貴重なものである。
スズの前では比較的穏やかなことが多いが、ここまでハッキリとした笑顔は彼女でも初めて見るのだ。
よって…
「はっ…!」
「? どうした、急に」
「先生の笑顔は破壊力がすごいです…!カッコ良すぎです!」
「はぁ〜くだらないことを言ってる暇があったら、あいつの相手をしろ」
「へ?」
「天使ー!!」
トイレから出てきた一ノ瀬が、スズを見つけるなり猛ダッシュでこちらへ向かってくる。
呼び方が直っていないので、まずはそこから注意する必要がありそうだ…
「四季、呼び方!」
「あ、ヤベっ!ごめん、スズ!」
「もう〜もうすぐ教室行くんだから、本当に気をつけてよ?はい、制服」
「分かってるって!」
本当に分かってるのか疑いたくなるぐらいの全開笑顔で、一ノ瀬はスズから制服を受け取った。
何もかもが珍しいのか、更衣室に入ってからもドア越しに興奮した声が聞こえてくる。
無陀野は筋トレをしながら、スズは壁に寄りかかってボーっとしながら、彼と会話をするのだった。
「頭に何か生えてんだけど!?」
「鬼の血が目覚めた証だ…123、訓練で自由に消せる…124」
「スズも生えてんの〜?」
「生えてるよ〜!」
「あとで見せて!傷も治ってるし、すげぇな…」
「いいから早く着替えろ…125」
「制服カッケェな」
「サイズ大丈夫そう?」
「おう、ピッタリ!…まさかまた学校に通うなんてな」
「お前の他にも合格者がいる。その中でレベル的にはお前が最下位だ。様子を見て使えないと判断したら退学だ」
「は!余裕だよ!…あ!そーいや親父どこやったんだよ!」
着替え終わって更衣室を出た一ノ瀬は、開口一番そう叫んだ。
彼の父親は遺体安置所に保管されていた。
見た目はスズが整えているから、葬送は任せると無陀野は告げる。
「…」
「後悔に浸るなんて時間の無駄だ」
「お前そーゆう言い方…!」
「同じ後悔しないために強くなれ。経験を無駄にする非合理的な馬鹿になるな」
「(ふふっ。先生、相変わらず優しいな)」
「あんた優し…「ちんたらするな!教室まで15秒で行くぞ!スズ、早く掴まれ!」
「え、あ、はい!」
「ズリィんだよ!無理だろ!スズまで連れてくなよ!」
「そうか、じゃ退学だな」
「鬼かよ!」
「鬼だが?」
「やかましいっす!」
「あははっ!」
無陀野と一ノ瀬のやり取りに、スズは傘に掴まりながら声をあげて笑う。
その光景は、鬼の世界とは思えないほど微笑ましいものだった。
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