数分後、一ノ瀬がトイレから戻ってくる。

パンパンに目が腫れた彼の顔を見るなり、皇后崎は分かりやすくドン引きした。

一方でクスッと笑みを漏らしたスズは、言い争う2人を置いて水道場へと向かう。


「顔見て引いてんじゃねーよ。いつもと変わらねぇだろ」

「まぁそうだな」

「そうだなじゃねーよ!見ろ!目パンパンじゃねーか!」

「お前いつもそんな顔だぞ。」

「よし殺す!前歯全部抜いて殺す!」

「テメェ可哀想とか思ったら殺すぞ」

「馬鹿か?可哀想とか思わねーよ。ただまぁ…心が折れねぇのはすげぇと思ったよ」

「うん、そうだね」


言いながら一ノ瀬の隣へ座ったスズは、濡らしてきたハンカチをそっと彼の目元へ持っていった。

急な冷たさとスズの接近に、一ノ瀬は少しバタつく。

だがすぐに落ち着きを取り戻すと、スズにお礼を言いながら顔を上に向けてハンカチの冷たさを味わった。

一ノ瀬越しに皇后崎の方へ視線を向ければ、気恥ずかしそうな表情をした彼が見える。

何だかんだ言いながら、出会った頃よりも確実に絆が出来ている2人の姿に、喜びの表情を見せるスズなのだった。


そんな折、不意に一ノ瀬のスマホが鳴り響いた。

このタイミングでかけてくるのは間違いなく神門。

内容はもちろん、お願いしていた妹の居場所についてだ。

そう遠くない場所だからと急いで駆けつけた先で、3人はまたも火事を目撃することになる。


「そんな…また燃えてる…」

「なんで…なんで行くとこ行くとこ火事なんだよ?おかしいだろ!」

「うるせぇ…!俺にわかるわけねーだろ」


呆然と立ち尽くすスズ達の横を、救急隊が慌ただしく動き回る。

ストレッチャーの上には、呼吸器をつけてはいるが穏やかな表情の妹が寝せられていた。


「なぁスズ、皇后崎…俺たちは…何に振り回されてんだ…?」

「良くない方に動いてる気がする…現状を皆に報告しないと」

「そうだよな。とりあえず先生たちの所戻ろうぜ。俺らで考えても仕方ねぇ」


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練馬のアジトへと戻って来ると、皇后崎は約束通り事の次第を話し始めた。

行く先々で先手を打たれている現状を見るに、淀川は何らかの能力で盗撮または盗聴されていると予測を立てる。

一番可能性が高いのは桃と接触した皇后崎だが、身体検査の結果特に気になるところは見つからなかった。

相手側の情報が何もないという圧倒的不利な状況故に、大人組は唯一の手がかりとして半グレ集団を挙げた。

早くしないと、自分達に繋がる彼らを桃側が処分してしまう。

その前に何としても見つける必要があるのだと、淀川は生徒たちに言い聞かせた。

未知の能力、相手の残虐性、盗撮・盗聴…

それらの不安材料に、生徒たちはいつになく大人しい。


「打つ手なしですか…」

「ばーか。どんな能力にも必ず穴がある。大事なのは諦めず、その穴を見つけることだ。

 なんだ?お前ら追い込まれた途端、弱気になりやがって。ピンチの時こそ冷静に脳みそフル回転で突破方法考えろ。

 そんなんじゃ偵察も医療も戦闘部隊も勤まらねぇぞ。心だけは折るな。心が折れなきゃ、チャンスは0にはならねぇ」

「押忍!」


淀川の言葉に、場は少しずつポジティブな空気へと変わっていく。

一ノ瀬の元気な表情と声に淀川はもちろん、場の後方で話を聞いていたスズも安堵の表情を見せる。

しかしその顔をパっと引き締めると、スズは大人組を集めて作戦会議を始めようとする隊長殿の元へ走った。


「無陀野、馨。作戦会議だ」

「あ、真澄さん!」

「! …馨、そこの会議室だ。無陀野と先行ってろ」

「はい。…デレデレして遅くならないでくださいよ」

「どっかとばすぞ。早く行け」


ニヤニヤする並木度と呆れたような表情を見せる無陀野を送り出すと、淀川はスズと向かい合う。

この状況で呼び止めるということは、少しでも早く自分に伝えたいことがあるのだろう。

だがそれを聞くよりも先に、淀川は自分の中から出てこようとする言葉を抑えられなかった。


「おかえり、スズ。ちゃんと戻って来たな」

「はい!真澄さんと約束しましたから!」

「(! …いちいち心が乱れる)たまには言うこと聞くんだな」

「いつも聞いてるつもりなんですけど…」

「そうだったか?…それよりどうした。何か話があったんじゃねぇのか?」

「そうでした…!皇后崎君のことなんですけど、治療の一環で彼に輸血をしていた時に、少し変な感じがして…」

「変な感じって?」

「んー…何か皇后崎君以外の気配を感じるというか…」

「体内からってことか?」

「はい…気のせいかもしれないんですけど、何かあったら嫌だなと思って」

「分かった。念のため目隠しとヘッドホンもつけるよう伝えとく。ありがとな」

「いえ!よろしくお願いします」


ガバッと頭を下げてから同期の元へ戻るスズを見送ると、皇后崎を隔離している部屋へ連絡し、今の話を伝える淀川。

それからもう一度スズの方へ視線を向け、彼は会議室へと足を速めるのだった。



to be continued...



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