「一ノ瀬、お前ははめられたってことだ。知り合いが実は桃だったって話はなくもねぇ。つってもよくある話でもねぇけどな!はは!」
「何が面白ぇんだよ!ヘラヘラしやがって!俺は別に神門が桃だからショック受けてんじゃねぇ!誤解して話も聞かず、一方的に殺意向けられたことに腹がたってんだ!」
「四季、落ち着いて…!」
淀川の言葉にイラだった一ノ瀬は、バッと立ち上がると偵察部隊隊長の胸倉を掴む。
だが胸倉を掴んだその腕に、すぐに第三者の手が添えられた。
反射的にそちらに目をやれば、慌てて駆け寄って来たスズの姿。
悲しそうな、不安そうな表情の天使を見て、一ノ瀬は力が抜けたように手を離した。
「なんで…話聞いてくれねぇんだ…俺はあいつと戦いたくねぇのに…」
「四季…それは…」
「スズ、下がってろ。戦いたくねぇけど話は聞いて欲しい?馬鹿かお前。お前の話なんか誰も聞かねぇよ。
なんでか分かるか?お前が弱いからだ。弱い奴の話なんか聞いちゃくれねーんだよ」
「どーゆうことだよ…?」
「四季、俺たち鬼はなんで桃と戦うかわかるか?」
「そりゃ桃が鬼を殺そうとしてくるからだろ…?」
「確かに鬼を絶滅させようとする桃に抵抗するためでもあるが、本質はそこじゃない」
"話し合いの席に座らせるためだ"
淀川からバトンを受け取った無陀野はそう言って、この戦争の本質について話し始めた。
このまま殺し合いが続けば、最悪の場合、双方が絶滅する可能性もある。
だからそうならないように、互いに納得できる"落とし所"を決めるための話し合いが必要なのだ。
しかし桃太郎は自分たちが正義だと信じ、鬼を格下に見ている。
弱い奴の話は聞く必要がないと、そう思っているところに問題があった。
つまり鬼側が今しなくてはいけないのは、武力を見せつけ、このまま戦争を続けることは得策じゃないと理解させること。
「わかるか?戦わないと、話し合いの席にすら座ってもらえない。弱いと話も聞いてもらえない。弱者の話を聞いてくれる程、世界は優しくできてない。
どんな理由であれ、お前は誤解され殺意を向けられた。そうなったらもう今のままじゃ話は聞いてもらえないだろうな。
じゃあどうする?声をかけ続けるか?一度出した殺意を収めるのは簡単じゃない。戦わなければ殺されて終わりだ。極悪のレッテルを貼られたまま死ぬだけだ。
嫌なら戦え!耳を引っ張ってでも話を聞かせるんだ。戦わない奴の言葉は誰にも届かない。話し合いの席に座ってほしいなら、戦う覚悟を決めろ」
無陀野にそう言われたものの、一ノ瀬は納得できずにいた。
輪から外れた彼は、誰も通らなそうな廊下に再び座り込む。
"何故戦いたくない人と戦わなければいけないのか"
その答えが出ないまま、どのぐらいの時間が経っただろう…
不意に隣に人の気配を感じる。
そちらを見なくても、隣から感じる優しい空気で誰だかすぐに分かった。
「…爆破された現場に神門が来てさ、"ナツ君?"って呼びかけてきたんだよ。俺それに普通に反応しちゃって…おまけに神門の名前まで言っちゃってさ。
でも振り返った時、あいつすげー悲しそうな顔してて…もうそっからは一方的に敵だとか、嘘つきだとか言われて…全然話になんなかった」
「そっか。…お祭りの時に神門が言ってたこと覚えてる?」
「言ったこと?」
「うん。神門さ、"その人が悪かどうか自分で見て判断したい"って言ってたんだ」
「あー確かに言ってたかも」
「今神門は、仕組まれたとはいえ、自分の目で見て四季は悪い奴だって判断した。だから全力で拒絶しようとしてる」
「…」
「でもだったら、その逆もできると思うんだよね」
「逆?」
そう言いながら隣へ顔を向ければ、"そう!"と明るい声で答えたスズが微笑んでいた。
いつも自分を助けてくれる彼女の言葉を、珍しく静かに待っている一ノ瀬。
そんなワンコのような姿に、スズはまたふわっと笑いかける。
「自分の目で見れば、神門は悪だけじゃなくて善の方もちゃんと判断できる。
だから自分は何も悪いことはしてないし、神門が思ってるような奴じゃないって、アピールし続けるの」
「でも俺の方見てくんねーし…」
「見てくれないなら、四季の方から神門の視界に入っていけばいい。
無人先生や真澄さんは強い言葉を使ったけど、相手の目の前に立たないと始まらないってことを言いたかったんだと思うよ。
目を見てしっかり伝えれば、神門は必ず分かってくれる。彼はそういう人だと思う。…違う?」
「違わない。俺も…そう思う」
「うん!…相手の前に立てば、当然攻撃されることもある。でもほら男子ってさ、ケンカしても次の日すぐ仲直りしてるじゃん。
あれは女子にはなかなかできないから、羨ましいな〜って思う。だから神門とちょっとケンカしてくるつもりで、ねっ?」
「ケンカなら得意だわ!」
「ふふっ。それでこそ四季だよ!」
「…スズってすげーな」
「え?」
「体だけじゃなくて心も治せるとか、マジで天使じゃん!」
「て、天使話は今いいから…!」
照れくさくなって急にワタワタするスズに笑顔を向ける一ノ瀬は、どこかスッキリした表情をしていた。
to be continued...
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