「残ってる隊員はいねぇな!?別アジトに行ったな!?したら俺らも移動すんぞ!」


緊急の引っ越し作業が終わり、すっかり人気ひとけがなくなったアジトに、隊長である淀川の声が響く。

これから羅刹の生徒達を連れて、彼自身も別アジトへと移動を開始する。

場の後方で無陀野の隣を歩くスズも、少し緊張気味な表情で足を進めていた。





第31話 曲がり角 / 笑えよ





と、そんなスズの頬を突然無陀野がスッと撫でる。

驚いて顔を上げれば、穏やかな表情の彼と目が合った。


「! 無人先生?」

「表情が硬いな」

「…同期の皆の治療をするのが慣れなくて」

「京都の時にしてなかったか?」

「してたんですけど…本当に少しだけ、です。ほとんどは隊員の皆さんの治療でしたから。でも今回は皆がメインで戦うでしょ?

 当然大ケガをする可能性もあるわけで…皆がボロボロになった姿を見た時に、落ち着いて治療できるか…少し不安なんです」


"今回は援護部隊が私だけですし…"

そう言ってまた表情を曇らせるスズに対し、無陀野はいつもの落ち着いた口調で語りかける。


「お前と同じぐらいの歳で、これだけ経験を積んでる奴を俺は知らない」

「えっ」

「援護部隊としての実績から言えばもう中堅レベルだ。その中で、知ってる顔を治療したこともあっただろ?」

「それは…もちろん、あります」

「重症患者の治療だって、100は超えてるはず。スズがそれを必死に乗り越えてきたのを俺は知ってる。

 お前は自分が思ってるよりもずっと優秀で、精神的にもタフだ。援護部隊が1人でも、京夜がいなくても、ちゃんとやれる。

 俺や真澄、それにあいつらがスズのことを信じてるように、お前も自分をもっと信じろ。大丈夫だ…俺の秘書だろ?」

「! はい。頑張ります!」


最後に笑顔でお礼を伝えれば、無陀野は優しくスズの頭をポンと撫でた。

前方からは、矢颪がこれからの動きについて淀川に文句を言っている声が聞こえてくる。

桃太郎との接触が近いにも関わらず、練馬の戦闘部隊が動かせない今、頼りになるのは羅刹の生徒たち。

淀川は矢颪の文句を受け流しながら、そんな言葉を彼らに送った。


「だから1つだけ言っておく。死ぬんじゃねぇぞ、ちんちくりんども!」

「…あいつらは未熟で、無謀な戦い方をするかもしれない。悪いが、その時はフォローを頼む」

「らじゃ!援護部隊として、無人先生の秘書として、しっかり皆を守ります。もちろん、先生のこともね!」


かつて戦闘部隊のエースと呼ばれた自分を、何の躊躇いもなく"守る"と言ってくる目の前の少女。

その真っ直ぐな言葉と想いは、いつも無陀野の心を解きほぐす。

自分よりも小さなその体へ伸ばしかけた手を理性で抑え、彼もまたスズにお礼を伝えるのだった。



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