ようやく自分の出番だと、嬉しそうな表情で一歩前に出た矢颪。

そんな彼の横を通りながら、無陀野は静かに声をかける。


"もうすぐ戦闘部隊が来るから、それまで持ち堪えろ"

"倒そうなんて考えるな"


人によっては支えになる言葉かもしれない。

だが矢颪にとっては真逆の効果をもたらすものだった。





第33話 怒VS怒 〜 夜は長いぜ?





表情からも、纏う空気からも、矢颪の大きな怒りのエネルギーを感じる。

彼の能力は、そのエネルギーを原動力として発動する。

それを分かった上での発言に、スズと並木度は改めて無陀野の凄さを実感した。


「(個々に合わせた"乗せ方"が上手いな…)」

「(さすが無人先生…!碇君のこと分かってる!)」


2人の想いを知ってか知らずか、無陀野は淀川の時と同様、並木度にも視線を送った。

矢颪を含めた教え子たちを彼に預け、自身は練馬の隊長の元へと足を向ける。

と、その途中でスズの傍へ来ると、耳元に口を寄せた。


「あいつは恐らく無傷というわけにはいかない」

「! ……はい」

「でもあいつは死なない。お前がいるからな」

「任せて下さい!ちゃんと自分の力を信じます」

「…いい表情だ」

「あ、ありがとうございます…!」

「ただし、危ないと思ったらすぐに連絡しろ。お前自身が傷つくことは許さない」

「分かりました」


真剣な目で言葉を返すスズを満足そうに見やってから、無陀野は月詠と向かい合った。

そしてここではお互いやりにくいだろうと、場所を更に地下へと移すのだった。


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月詠と共に無陀野が姿を消すと、桜介のイライラは全て矢颪へと向いた。

相手の攻撃に備えて矢颪も血を解放するが、今回出てきたのは双剣。

遠距離型である無陀野の技との相性は最悪だ。

何とか近づかなければと考えていた矢颪だったが、次の瞬間彼の眼前に桜介が迫っていた。

双剣で応戦するものの、その圧倒的体術センスに全く太刀打ちできない。

殴り飛ばされ壁に激突した矢颪に追加で蹴りを喰らわせると、桜介はつまらなそうに声をかける。


「弱すぎて笑えねぇぞ?なんで出しゃばった?派手好きの目立ちたがりか?

 俺はお前みたいなクソつまんねぇ雑魚が…大嫌いなんだよ。死ね。爪見てる方が面白ぇわ」

「碇君、起きて!!」

「おっ、そうだ!スズがいんだった。おい、こっち来て俺の相手しろよ!」

「出来るわけないじゃないですか!瞬殺されて終わりですよ!」

「んなの分かってるわ。そうじゃなくて、話し相手になれって言ってんだよ」


矢颪のことを血の兵士に任せ、悠々とスズの方へ歩いてくる桜介。

彼の背後では、兵士の放った弓矢が一直線に矢颪へと向かって行く。


「(さすがに助けないと…!桜介は今、スズちゃんに気を取られてる。今なら行ける!)」


そう判断した並木度は、スズへ少し視線を向けてから矢颪の元へ駆け寄ろうとする。

だがその時…

突然血の兵士が消し飛び、辺りにもの凄い風が吹き荒れた。


「うわっ…!」

「(なんだ?)…スズ、平気か?」

「へっ?あ、は、はい…!」


驚くスズを突風から守るように、桜介は自分の方へ少し抱き寄せた。

まさか自分が桃太郎に守られるとは思っておらず、途端にテンパるスズ。

そんな彼女に"下がってろ"と告げ、桜介は視線を矢颪のいる方へ向けた。

しかしさっきまでいた場所に彼の姿はない。

唖然とする桜介に、不意に上から声がかかった。


「おい、楽しみてぇんだろ?躍らせてやるよ」

「ははは!いいじゃんか!爪見るより面白ぇかもなぁ!」


桜介が見上げた先には、背中に生えた血の翼で飛んでいる矢颪がいた。



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