本日最後の血蝕解放で出た大きな血の翼に、矢颪は"大当たりだ"と興奮気味に叫ぶ。

その空気を察したのか、敵対する桜介もまた嬉しそうに再び戦いへと身を投じた。

桜介が繰り出す無数の兵士たちを、無数の血の羽で吹き飛ばす矢颪。

先程までのやられっぷりが嘘のように、彼は副隊長相手に善戦していた。


そんな中、無数の弓矢を避けながら桜介自身に狙いを定めた矢颪は、今までいた空中から地上の方へと高度を下げる。

しかしその機会を見逃すことなく、桜介は地面に手をつき龍を作り出すと、そのまま矢颪の左翼を食い千切らせた。

片側の翼を失った彼の体はコントロールが効かなくなり、もの凄いスピードで真っ逆さまに落下していく。


「まずい!翼が片方潰れた!落ちるぞ!」

「(間に合え!)スズちゃん、準備を!」

「はい!」

「はは!恥じなくていいぜ!結構楽しめたよ!殺し合いで人生の幕を閉じる!最高に幸せな死に方だろ?羨ましいぜ!」


重傷を負った矢颪のため助けに入る並木度と、治療の体制を整えるスズ。

だが彼は諦めていなかった。

体内の血液を残った右翼に注ぎ込み、大きな片翼を作る。

そして突如体を回転させたかと思うと、再び辺りに突風が吹き荒れた。

巻き込まれないよう並木度から"伏せろ!"と指示されたスズたちは、すぐさま行動に移す。

矢颪が捨て身の覚悟で作り出した強大な竜巻は血の兵士を吹き飛ばし、本体である桜介の骨という骨を粉々に砕いた。

鼓膜が破れ、あらゆる場所から血を流し白目をむいている桜介は、それからピクリとも動かなかった。


「かっ…勝った!碇君が勝った!」

「まずい…!」

「大丈夫ですか!?」

「いや…かなりマズイ…左腕は辛うじて繋がってる状態だ…スズちゃん、どう?」

「そうですね…左腕はもちろんですけど、そもそも血を失い過ぎてます。すぐに輸血しないと…!」


今度こそ本当に落下してきた矢颪を受け止めた並木度は、遊摺部からの問いかけに眉根を寄せる。

駆け寄って来たスズにバトンパスすれば、左腕の損傷と大量失血という診断が下された。

以前一ノ瀬や屏風ヶ浦にしたように、スズはすぐに矢颪に対して輸血を開始した。


「碇君、大丈夫だからね。すぐ治すから…!」

「うっ…」

「ここじゃスズちゃんが落ち着いて治療できない。医療部隊の所に運ぼう。周りに桃がいないか調べる。……クソ…」

「どーしたんですか?」

「大勢の桃が向かってきてる」

「鬼の戦闘部隊は来ないんですか?」

「多分足止め喰らってるんだと思うよ。とにかく行こう!スズちゃん、矢颪君が動かせる状態になったら教えて?」

「分かりました!」


それから数分のうちにスズが応急処置を施し、一行は移動のため準備を始める。

そんな中でスズは、静かに桜介の元へ向かった。

矢颪による最初の突風騒ぎの時、彼は何の躊躇いもなくスズを守り、気遣う言葉をかけてきた。

もちろん、大切な同期をあそこまで傷つけた桃太郎であることは間違いない。

しかし彼からは深夜ほどの邪悪さを感じないのだ。単純に"超"がつくほどの戦闘狂なだけ。

まだ出会ったばかりで何も分からないけれど、スズは自分の直感を信じることにした。


「…さっきはありがとうございました、桜介さん」


桜介の破れた鼓膜を自身の血で治すと、スズは少し笑みを向けながらそう告げた。



to be continued...



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