矢颪の治療をするため、スズたちが医療部隊のアジトへ向かっていた頃…

場所を移動していた他の面々の戦いも、それぞれの地で勝敗がつき始めていた。

そんな中でいち早く事を済ませた無陀野は、地下から戻る途中で秘書へ連絡を入れる。





第34話 パーフェクト of 運勢 〜 ありえない





「はい、木下です!」

『こっちは片付いた。そっちの状況は?』

「こちらも終わりました。何とか勝ちましたけど、碇君は腕の損傷と大量失血で重症です。

 現場で応急処置だけして、今医療部隊のアジトに向かってます」

『そうか。お前自身は無事だろうな?』

「もちろん!先生もケガしてないですか?」

『…大丈夫だ』


少しのを怪しく思いながらも、スズは無陀野と会話を続ける。

このまま合流して一緒に医療部隊のアジトへ向かうかと思われたが、どうもそうではなさそうだ。


『矢颪の方だが、応急処置は終わってると言ったな』

「はい」

『なら一旦医療部隊に預けて、お前は俺と一緒に来てくれ』

「"来てくれ"って、どこにですか?」

『四季のところだ。相手の桃太郎は恐らく格上、対抗しようとした四季が暴走する可能性がある。そうなったら、いくら真澄でも荷が重い』

「確かに。…分かりました!私も先生の方に向かいます!」

『いや、もう着くからお前はそのままそこにいろ』


そう言って電話を切った無陀野は、更にスピードを上げスズの元へと向かった。

一方でスズは今の会話と、自分が戻るまで矢颪の処置を医療部隊にお願いしたい旨を並木度に伝えた。

そうして並木度や同期たちと別れてから1分と経たないうちに、戦いを終えた無陀野が姿を見せる。


「あ、先生!」

「悪い、待たせた」

「全然です!さっき偵察部隊の方が来て、近くのビルに野次馬が集まってるって教えてくれました。屋上で爆発音が聞こえたみたいで…」

「間違いなくそこだな。すぐに向かうぞ」

「はい!…って、先生待って!」

「ん?どうした?」

「"どうした?"じゃないです!ケガしてるじゃないですか!」


優秀な秘書からの情報を受け、走り出そうとした無陀野だったが、すぐにその手を掴まれる。

顔を向ければ、そこには少し怒ったような表情を見せるスズがいた。

"大したケガじゃない"と伝えても、彼女の表情は変わらない。

むしろ険しくなる一方だ。


「…先生は確かに強いですけど、ケガをしたら他の皆と同じ…私にとっては、治療が必要な1人の患者さんです。

 前に先生言ってくれましたよね?私が倒れたらたくさんの人が困るって。

 先生だってそうです。先生がいなくなったら、もっとたくさんの人たちが困ります。

 だから今は大人しく私の言うこと聞いてください…!そんなに時間かけませんから」

「…お前に散々注意しておいて、自分がそれを守れてないんじゃ説得力がないな」

「先生…」

「左肩から斜めに斬られてる。多少治ってきてはいるが完全じゃない。頼めるか?」

「はい!」


ようやく笑顔が戻ったスズに連れられ、無陀野は近くの空き部屋に移動する。

ソファに横になった無陀野の治療を始めたスズだったが、彼の態度や言葉からは想像も出来ない程、ケガは酷いものだった。

この傷でよくあそこまで普通に動いていたと、スズは呆れるやら感心するやら複雑な表情を見せる。


「先生って鉄人なんですか?こんな傷じゃ動くのもやっとなのに、隊長クラスと戦ってたとか…信じられないです」

「鍛えてるからな」

「(それだけじゃ説明できないような…)」

「…だが最後の最後で踏ん張りがきくのは、スズがいるからだ」

「!」

「俺たちにはお前がいる。…ありがとう」


そう言いながら、スズの頭を優しく撫でる無陀野。

そしてそれからゆっくり体を起こすと、改めて治療のお礼を伝えるのだった。



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