スズと無陀野がビルへ向かっていた頃、屋上では淀川が窮地に追いやられていた。
暴走状態で五感が研ぎ澄まされているのか、自身の能力で姿を消している淀川への狙いが徐々に定まってくる一ノ瀬。
瓦礫だらけで足場が悪い中彼の相手をしていた淀川だったが、不意にバランスを崩し、その隙をついて右足を撃ち抜かれた。
逃げずに立ち回らなければいけない状況において、足を失うことはまさに致命傷である。
無数の銃を自分に向けている一ノ瀬を前に、淀川は静かに言葉を投げかけた。
「だからガキの子守りは嫌だったんだよ」
「に…ゲ…て…」
「面目ねぇな、一ノ瀬ぇ。俺の死を背負うんじゃねーぞ?」
そう告げた淀川は、自分の死を受け入れたように穏やかな表情で目を閉じた。
次の瞬間、辺りはものすごい爆風と炎に包まれた。
第35話 死なないでくれ 〜 欲しかったもの
襲ってくるであろう痛みや苦しみが全くないことに疑問を抱く淀川。
自分がまだ死んでいないことを自覚し目を開ければ、目の前には見知った顔があった。
「あぁ?」
「安らかな顔してどーした?あの世で隠居するには早過ぎるだろう。…待たせたな」
「登場の仕方がむかつくんだよ」
「…だそうだ」
「?」
少し後ろに顔を向けながら、無陀野は誰かに話しかける。
淀川が何か言葉を発するのを待たず、彼の前にはもう1人…心底可愛がっている彼女が現れた。
「真澄さん…!」
「! スズ…(わざとだな、クソ…)」
「ごめんなさい、遅くなってしまって…」
「バーカ。お前の登場は満点だよ」
「えっ?」
「…治してくれんだろ?俺の足」
「もちろんです!ちょっと触りますね」
「状況説明は不要だ。大体見当がつく。スズ、そっちは頼むぞ」
「はい!」
「ところでお前の"ソレ"はいつ撃つんだ?」
「急に現れて偉そうですね。…準備完了です」
そう言った神門の横には、超大型の銃が生成されていた。
"死なないでくれ…"と大粒の涙を流して語りかけながら、その銃口を一ノ瀬へ向ける。
そして弾が直撃する寸前、一ノ瀬は自分を解放してくれる神門へ感謝の言葉を伝えた。
「あ…r…が…ウ"…」
「うん…」
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爆発に巻き込まれないよう無陀野の背後に隠れていたスズは、目の前に広がっているであろう惨状を想像し目を開けられずにいた。
周りの空気が動く気配でようやく目を開けると、そこには全身が焼け爛れ、手足を失った一ノ瀬が横たわっていた。
元の姿が思い出せない程の状態に、スズは自分の涙が急速にこみ上げてくるのを感じる。
「おいおい、無陀野ぉ。流石に死んでるだろコレは…」
「ヒュー…ヒュー…」
「かすかに息がある」
「えっ…!」
「マジか!この状態で生きてんのか!馬鹿はこうでなきゃな!」
「心音が遅い。治療が必要だ。…スズ、しっかりしろ。出番だぞ」
「はい…!」
無陀野に頭をポンと撫でられ、スズは気合いを入れ直すように両頬をパンッと叩いた。
と、同時に現れるもう1つの影…それは淀川の忠実で優秀な部下・並木度であった。
「遅くなりました」
「馨か。いい所に来た」
「隊長、足が…!」
「平気だ。スズの応急処置は受けてる」
「良かった。それは…四季君…?」
「話は後だ。状況は?」
「下に野次馬が集まってます。報道も来るかと思います」
「一ノ瀬を医療部隊の所まで運べ」
「ハイ」
「そうだ、一ノ瀬の名誉のために言っとくが、病院に火を点けたのも全部お前の…」
「わかってます。炎鬼の力を見た時にうっすら気づきました。もし四季君が犯人なら、あんな火事程度じゃ済まないって」
「神門…」
「あっそ、じゃいいや。無陀野、スズ。俺らは先行くぞ」
「はい。…あ、真澄さん!安静にしてて下さいね!すぐ行きますから!」
スズの言葉に少し笑みを見せた淀川は、軽く手を上げて応える。
後に残った2人は、力を出し切り座り込んでいる神門を見つめていた。
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