「体力は0…僕はしばらく闘えない。簡単に殺せてラッキーだね」

「別に殺さないが」

「え…?殺さない…?何故…?」


止めを刺さない無陀野にそう問いかけた神門は、以前一ノ瀬も聞いた内容を告げられる。

鬼側が闘うのは、話し合いの席に桃を座らせるためなのだと…

自分達には全くなかった考えを知り、神門はハッとしたように目を見開く。

どちらかと言えば鬼側の考えに好意的な態度を示す神門だったが、そんな彼でもやはり鬼の暴走がある限り難しいのではと訴えた。


「言われなくてもわかってる。そこが"複雑"なんだ」

「待ってください!四季君にゴメンと…謝っておいてください…」

「謝罪は自分の口から伝えないと意味はない」

「けど、どんな顔して会えば…僕は彼にとんでもないことを。きっと会いたくないと思う」

「あいつは単純で馬鹿だけど、人の気持ちはちゃんと汲みとれる奴だ。大事なのはお前がどう向き合うかだ」


"俺は伝えない"

最後にそう言った無陀野は、去り際にスズへ目配せしてから姿を消した。

下の騒々しさとは裏腹に、残されたスズと神門の周りはシンと静まり返っている。

最初に口火を切ったのは神門の方であった。


「…名前、スズって言うの?」

「あ、うん…木下スズです。嘘ついててゴメン」

「えっ、木下スズ?君が?」

「そんなに驚く?」

「いや、生け捕りにしろって言われてる…鬼の名前だったから」

「やっぱそうだよね〜だからいろいろ気をつけなきゃいけないんだ。……捕まえる?」

「捕まえるわけない…!」


神門の言葉に、スズはお礼を言いながら笑顔を見せた。

勝手に勘違いして同期に酷いことをしたのに、目の前の少女は以前と変わらない態度で自分に接してくる。

そのことに神門は救われるような、苦しいような…何とも言えない感情が沸き上がる。


「スズは……怒ってないの?僕の勘違いで、四季君があんなことになって…」

「んー…怒ってるっていうより、呆れてるかな」

「えっ…」

「ちょっとしたすれ違いでケンカしただけでしょ?そんなこの世の終わりみたいな顔してないで、シャキッとしなさい!」

「でも…あの状態じゃ…元に戻るか…」

「それを元に戻すのが私の仕事だよ」

「!」

「大丈夫。必ずまた、神門の前に四季を連れてくる。次は私が頑張る番!」


目線を合わせるように膝をつくと、スズは穏やかな表情でそう告げる。

その優しい表情と言葉は、神門の涙腺をいとも簡単に刺激した。

慌てて涙を拭う姿を笑顔で見つめていたスズは、続けて言葉を紡いだ。


「2番目に痛いとこはどこ?」

「え?」

「一番痛いとこは治せないけど、その次なら治してあげられる」

「…一番痛いとこが痛すぎて、他は…わからない」

「そっか…じゃあ全体的に診て、特に酷そうなところだけ処置するね」


有無を言わさず処置に入るスズを、神門は静かに見つめる。

何故この子は何の躊躇いもなく、敵であるはずの自分を助けているのか。

どうして怒りの感情を一切ぶつけず、こんなに穏やかに自分を受け入れてくれるのか。

スズの言動1つ1つに、神門は疑問が尽きなかった。


「……よしっ、一旦完了かな。骨は折れてないと思うけど、精密検査は必ず受けること」

「……んで…」

「応急処置しかしてないから、救護班の人にすぐ診てもらってね?」

「なんで、僕まで…」

「だって四季が元気になった時に神門がボロボロじゃ絵にならないじゃん。…会いに来てくれるんでしょ?」

「!」

「さっき無人先生も言ってたけど、四季は話せばちゃんと分かってくれる子だよ。だから神門さえその気があるなら、また声をかけてあげて欲しい。

 私ね、神門と四季なら絶対大丈夫だと思ってるんだ。あんなに趣味の話で盛り上がれる人、そうそう巡り会わないよ。大事にして損はないと思うけど!」


そこまで一気に言うと、スズは慌てた様子で"じゃあね!"と告げ、屋上を後にするのだった。


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ビルの裏手に出てきたスズは、人目を避けてアジトへ戻ろうとする。

だが辺りを警戒してキョロキョロしていた矢先、死角から頭にコツンと拳が当てられた。


「ひっ…!」

「遅い。こんなに長い時間いていいとは言ってない」

「無人先生…!ご、ごめんなさい。つい…」

「はぁ…」

「…待っててくれたんですか?」

「俺がいないと、まともに帰って来たことがないからな」

「うっ…」

「ほら、早く掴まれ。帰るぞ」

「はい!」


自分の方へ仕込み傘を差し出す無陀野に、スズは明るい笑顔で返事をした。

アジトには、彼女の治療を待っている重症患者が3人もいる。

そんな大仕事と少しの不安を抱えたスズの元に、意外な救世主が現れるのだが…

それはまた次のお話で。



to be continued...



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