桜介を相手にした矢颪は左腕の損傷と大量失血。
暴走した一ノ瀬の攻撃により右足を失った淀川。
そして今さっき運ばれてきた一ノ瀬は全身熱傷で重症。
アジトへ戻ったスズは、すぐさま援護部隊のスタッフと3人の治療方針について話し合いを始める。
会話をするスズの表情は真剣そのものだったが、どこか不安げで…
先に戻っていた皇后崎は、そんな彼女を静かに見つめるのだった。
第36話 責任
「呼吸も心音も弱まってる!」
「出血も傷も酷いぞコレ…!」
「こっちも左腕はかろうじて繋がってる状態だ!」
「血を使い過ぎて、輸血しても再生が追いつかない!」
「輸血もっと持って来い!このままじゃ死ぬぞ!」
「止血!早くしろ!」
周りが慌ただしく動いている間、スズは目を閉じ深呼吸を繰り返す。
治療できるのが自分しかいない状況で不安も多いのだろうと思い、皇后崎は言葉をかけようと近づいた。
が、彼が口を開いたタイミングで1つの足音が聞こえてくる。
「患者の傍で騒いじゃダメだよー」
「お前…」
「え…?なんでここに!?」
「なんでって…戦場が僕を呼んだだけだよ」
「京夜先生…!」
聞き慣れた声に振り返ったスズの前には、京都にいるはずの師匠の姿があった。
"来ちゃった"と言いながら、屏風ヶ浦や淀川に明るく絡んでいく花魁坂。
ペラペラと一方的に話しまくる彼を止めたのは、いつでも冷静なもう1人の同期だった。
「で?実際の用は何だ?」
「まぁ四季君の鬼神の血について…かな」
「血もっと持って来い!」
「と思ったら何か盛り上がってるみたいだね。じゃあスズ、そろそろ行こうか!……ん?」
返事がないのを不思議に思い振り向けば、スズは顔を隠すように横を向いていた。
花魁坂がもう一度名前を呼ぶと、彼女は焦ったように返事をする。
「スズ〜?」
「あ、はい…!」
「あれ、スズ何で涙目?どっか痛い?」
「違うんです…!先生が来てくれて…その、安心して…!」
「!」
「1人で…全員を治療できるか、少し不安だったから…すみません!もう大丈夫です!」
「(あー…ギュってしてあげたい。我慢して、俺…)任せて!一緒に頑張ろうね」
「はい!」
笑顔で自分を見上げてくるスズの頭を優しく撫でてから、花魁坂は処置室へ続く扉を開けた。
白衣のポケットに入れていた彼のもう片方の手が、感情を抑え込むように強く握り締められていたことは、誰も知らない。
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最重症である一ノ瀬を花魁坂が、四肢を欠損している淀川と矢颪をスズが担当し、それぞれ治療を開始した。
"俺は後でいい"という淀川の言葉に甘え、スズはまず矢颪の左腕に集中する。
大量の輸血のお陰で、だいぶ顔色が戻って来た矢颪。
あとは左腕が繋がれば、鬼の回復力で小さな傷が治り、一気に目覚めるところまで来るだろう。
スズが血を使って腕を生成すること30分…
矢颪がうっすらと目を開けた。
「碇君…!」
「……天使?…俺、死んだのか…?」
「よしっ!冗談言えるなら大丈夫だね!腕どう?普通に動く?」
「腕……あぁ、動く。すげーな、マジで」
「プロですから!まだ少し貧血状態だと思うから、もう少し寝てて?」
「分かった…」
「ん、素直で結構。次に目が覚めた時はもう大丈夫だからね」
「おぅ…ありがとな…」
言い終わると同時にスッと目を閉じた矢颪は、表情も呼吸もすっかり穏やかになっていた。
最終チェックとして改めて体全体を診た後、スズは優しい笑みを向けながら矢颪のベッドを後にした。
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「真澄さん、すみません!お待たせしました…!」
「んな慌てなくても平気だ。ガキの方は落ち着いたのか?」
「はい。1回意識も戻りましたし、もう大丈夫です!」
「そうか、お疲れさん。続けてで悪ぃな」
「何言ってるんですか!真澄さんだって立派な患者さんなんですから、もっとふてぶてしくしててください」
"じゃあ始めますね"
そう言って笑みを見せたスズは、すぐに淀川の右足を作り始めた。
矢颪と違って完全に足が失われているため、こちらは少々時間がかかる。
真剣な顔で自分の足の治療をしてくれているスズを、淀川は何とも愛おしそうに見つめていた。
あのビルの屋上でスズの姿を見た時、心の底から安心したのを覚えている。
それは足が元通りになることに対してではなく、自分のケガを自分以上に心配してくれる存在がいることに対するものだった。
ケガの把握と必要な応急処置の選択、手技の正確さと早さは場数を踏んだからこそ身についたもの。
目の前の少女はそうやって多くの経験を積み、同じだけの修羅場をくぐり抜けてきた。
そんな厳しい環境でも優しさを失わない強い心は、淀川をいつも温かく包んでくれる。
彼も子供ではない。自分の中で誤魔化せない程に大きくなっている感情を自覚していた。
もうどうしようもないぐらい…
「…好き、なんだな」
「ん?何が好きなんですか?」
「(! ふっ。ダセェな…声に出ちまうとこまで来てんのかよ。……腹くくるか)いや、何でもねぇ。…スズ」
「はい!」
「覚悟しとけ。本気で行く」
「?」
向けられた言葉にポカンとするスズを、淀川は楽しそうに見やるのだった。
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