淀川の治療を終え、大手術真っ只中の師匠の元へ駆けつけたスズだったが、目の前の光景に疑問を覚える。

2人が処置室に入ってから、かれこれ1時間以上は経っているが、その割には手術の進捗が遅いように見えるのだ。

自分ならまだしも、師匠である花魁坂に限って、このような事態はあり得ない。

その理由はすぐに判明した。

花魁坂の治療には彼に対する迅速な輸血対応が必要なのだが、この練馬部隊のスタッフはそれに慣れていない。

故にスムーズな治療ができずにいたのだった。


「輸血対応代わります!」

「あ、スズ!そっち終わったの?」

「はい!2人とも元通りです!」

「さっすが〜!……来てくれて助かった。俺への輸血が追いつかなくて、上手く治療できなくてさ」


他のスタッフに聞こえないよう、小声でスズへ話しかける花魁坂。

信頼する弟子の登場に、その表情はすっかり安心しきっていた。

さっきの師匠の言葉を借り、"任せて下さい!"と元気に言い放ったスズと共に花魁坂はいよいよ本領を発揮する。

スズとの阿吽の呼吸で治療を進め、それから30分も経たないうちに手術を終えた。

さすがの花魁坂も今回ばかりは疲労困憊で、終わった途端にイスへ座り込む。


「先生、お疲れ様でした…!」

「ありがとー…疲れた…」

「残りの処置は私がやるので、少し座って休んでくださいね」

「うん、助かる。ありがとね」


そうして処置をしてから10分程経った頃…

最重症患者がついに目を覚ました。


「ん…?どこだ…?ここ…」

「あ…おはよう…」

「チャラ先!?なんでいんの?てかげっそりしてんな!」

「起きてすぐうるせぇ奴だな!」

「矢颪も?何してん?」

「あ、四季!」

「スズ!!なんかすげー久しぶりな感じする!」

「本当だね。時間的には数時間ぐらいだけど、その間に起きたイベントが濃すぎたよ。体は大丈夫?」

「バッチリ!ありがと!」


スズとの会話を聞きつけたのか、外で待機していた同期組がワラワラと一斉に入って来た。

例の一件で記憶があやふやな一ノ瀬だったが、入って来た面々の中に淀川の姿を見つけ、1つの記憶が蘇る。

すぐさま土下座の体勢になると、自分がしでかしたことを謝罪した。

元通りになった右足で一ノ瀬の頭を踏みつけながら、淀川はゆっくりと話し始める。


「本当だよ糞ガキ。スズがいなかったら義足生活だったぞ、この野郎」

「すみません…」

「けど大事なのはそこじゃねぇ。テメェが暴走化したことが問題だ」

「ウ"…」

「一歩間違えたら、大勢の一般人が死んでた。テメェが身も心も弱いせいでな。

 今回は運よく死者は出なかった。けど次は間違いなく人を殺す。お前らも覚えとけ。

 お前らは簡単に人を殺せる力があるってことを。しかも暴走したらそれが無差別に牙をむくってことを。

 これがどんだけ恐ろしいか忘れるな。だからもっと強くなれ。本能が暴走に頼らなくてすむくらいにな」

「うっす…」


一ノ瀬の暴走に関する話が落ち着くと、次は彼の驚異的な治癒力に話題が移った。

花魁坂によれば、これには鬼神の力が関係しているらしい。

この流れで、花魁坂は本来の目的である鬼神の血について一ノ瀬を含めた全員へ語り始める。


鬼の原点である"鬼神"。

鬼ならば誰でもこの鬼神の血が流れているが、その血を色濃く継ぐ子が一定の周期で現れる。

鬼神の血は8つの特性があり、一ノ瀬は炎の特性…炎鬼としての力を備えていた。

攻撃力も治癒力も高い鬼神の力だが、それ故の弊害も当然ある。


「異常な力故に、鬼神の子は歴史上全員若くして死んでるんだ」


多用すれば10代で亡くなることも珍しくないという、諸刃の剣のような力なのだ。

"まぁ使い過ぎなければ大丈夫っしょ"という軽いノリで、花魁坂の話は終わった。

落ち込むかと思っていたが、一ノ瀬は真逆な反応を示す。

自分の裸を見られたことを急に思い出し、恥ずかしいと叫びながら、彼は部屋の外へと飛び出して行った。

だが横を通った時、スズは一ノ瀬の顔が強張っているのを見逃さなかった。



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