何も言わず、何も仕掛けて来ず、ただそこに立っている神門。

並木度の能力で辺りを探っても、今この場にいる桃太郎は彼1人だけだった。

笑顔で声をかけようと口を開いた一ノ瀬に対し、神門は気まずそうに視線を逸らす。

それを受け、一ノ瀬はチラッとスズの方へ目線を送った。

笑顔で頷く彼女に、同じように少し笑みを見せると、一ノ瀬は大きな声で啖呵を切る。


「おいゴルァ!神門ぉ!テメェの勘違いのせいで大変な目にあったじゃねーかオイ!

 俺も暴走して悪いと思うけど、そもそもお前が踊らされなきゃ暴走もしなかったろ!頭よさそうなくせに、肝心な所でバカになんなよ!バカ!」

「(その通りだ…自分がふがいないばっかりに…辛い目にあわせてしまった…謝ってすむことじゃない…)」

「けどな!意識はうすらうすらだったけど、これだけは言えることがある。お前の声はちゃんと聞こえてたぜ。

 スゲー嬉しかったし、お前が本音をぶつけてくれたから、多分俺は最後まで暴走に抗えたと思う。ごめんな、助かったよ」

「(四季君…君はなんて…温かいんだ…)ごめん!」

「ハハハ!気にすんなって。また会おうぜ!」


今までと変わらない表情で手を振って、背を向け歩き出す一ノ瀬。

その背中を追うように続いたスズは、最後にチラッと後ろを振り返る。

神門と目が合えば、ビルの屋上で見たのと同じ優しい笑顔で控えめに手を振った。

歩いて行く彼女を見つめる神門の頭には、初めて出会ったあの祭りの日に一ノ瀬へ伝えた言葉が浮かぶ。


"大丈夫。人の彼女に手を出す趣味はないよ"

「(そういう趣味はなかったハズなんだけどな…スズのことが気になってしょうがない…)」


また会いたい、話したい…そう強く願ってしまう。

今の桃太郎と鬼の関係性では、それはかなり難しいことだ。

だが無陀野の言葉を聞き、彼の心には1つの決意が生まれた。

それを実現できれば、スズとの関係性も何か変化が起こるかもしれない。

若き桃太郎は、生き生きとした目で帰路につくのだった。


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場所は変わり、練馬桃源病院。

ここのVIP専用部屋から、見慣れた顔が出てくる。


「派手に負けたね。…お互い様か」

「うるせーよ」

「そんなピリつくなよ」

「ピリついてねーよ!」


顔や体の至るところに包帯やガーゼをあてがわれているのは、練馬コンビの月詠と桜介だ。

それぞれ無陀野と矢颪にコテンパンにやられ、心身ともにボロボロ状態。

分かりやすく感情が表に出てる桜介とは対照的に、月詠は穏やかに話し始める。


「けど幸運なことに僕らは生きてる。知ってるかい?生きてさえいれば、何回だってリベンジできるんだ。当然リベンジは?」

「すんに決まってんだろ!……あ、そういえば」

「ん?」

「今医者から、何で耳が無事だったんだ?って聞かれてよ…」

「耳?」

「あれだけの風圧を受ければ、普通は鼓膜が破けるハズだって」

「ん〜たまたま運が良かっただけじゃない?」

「運頼みはお前の仕事だろ。…俺はスズじゃねーかと思ってる」

「へ?何でスズが桜介のこと治すの?敵なのに」

「分かんねーよ!でもあの時…スズの声が聞こえた気がした」

「ふ〜ん…桜介がそんなにスズのこと好きだったとはね〜」

「そんなんじゃねー!ただ…からかうと面白ぇし、一緒にいて飽きねぇし、能力は当然文句ねぇし…だから欲しいだけだ」

「(それを世間一般じゃ"好き"って言うんだけどね…)」


相棒の鈍感さを微笑ましく思いながら、月詠は口元に笑みを浮かべた。



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