練馬から帰って来た翌日。
生徒たちは早速無陀野の厳しい授業を受けていた。
午前中が終わる頃には全員がヘロヘロ状態で、皆が皆その場に倒れ込んだ。
以前から彼に稽古をつけてもらっているスズでさえ、しばらく起き上がれなかったほど…
「本日の修行は以上。今日は半休だ。各自自由にしろ」
「づがれだ…」
「なんか以前に増して厳しくなってねぇ?」
「こんなのでへばってどうする。この程度でへばってる様じゃまだまだだな」
散々な言われように悔しそうな顔をする一ノ瀬を、スズは水分補給しながら微笑ましく見つめるのだった。
第38話 永久的未完成
突然半休を言い渡された一ノ瀬は、先程の無陀野の発言にイライラしながら学園内を散歩中。
修行が終わり、生徒たちは思い思いの場所で過ごしているため、行く先々に誰かしらがいた。
トレーニングをしたり、精神統一をしたり、はたまたストーカーから逃げていたり…
だが1人、なかなか出くわさない同期がいた。
「…スズがいねー」
本当なら一番に会いたかったし、何をしているのかも気になって仕方がない。
修行の一環で自分に何かできることがあるなら、喜んで協力したいとも思っていた。
しかしその想いとは裏腹に、ついにスズと出会うことはできなかった。
そこで一ノ瀬は捜索を諦め、不意に思い立った父親の墓参りのため外へ繰り出した。
「(親父にもスズのこと見せてーな…)…あっ!スズ!」
「ん?おっ、四季だ!」
墓地へ行く途中にある中庭で、一ノ瀬はようやくお目当ての人物を発見することができた。
植わっている木に自身の血をつけて、何やらやっていた様子のスズ。
問いかければ、"新しい血の使い方を研究中なの!"と明るい声で返事が来た。
「新しい血の使い方?」
「そっ!体の一部を作れる力を利用して、もう1つ出来そうなことがあってさ」
「へ〜治すだけじゃねぇってこと?」
「そういうこと!ちゃんと出来るようになったら教えるね!四季は〜どっか行く途中?」
「うん。親父の墓参り行ってなかったな〜と思って」
「そっか。確かにしばらくバタバタしてたもんね」
「……あのさ、良かったらスズも一緒に…来てくんねぇかな?」
「えっ?」
「親父の最期に立ち会ってくれたし、それに…俺の天使だって紹介したいし!」
「あははっ!そんな紹介されたらお父さん驚くわ。…でも私もご挨拶したいと思ってたし、ご一緒させてもらおうかな!」
「マジで!?ありがと!」
"こちらこそ、声かけてくれてありがとう!"
そう笑顔で言葉を返すスズと共に、一ノ瀬は墓地へと向かった。
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-side 一ノ瀬-
"一ノ瀬剛志之墓"って彫ってある墓石の前で、俺とスズは静かに手を合わせた。
何かいろいろあったから、今までのことを長々と報告してゆっくり目を開ける。
チラッと横を見れば、スズはまだ隣で手を合わせたままだった。
親父が死んだあの日…
それは俺自身が覚醒した日で、桃太郎を憎く思うキッカケになった日でもある。
悲しさと怒りと戸惑いで頭がおかしくなりそうになる中で、スズとの出会いだけが俺にとって救いだった。
優しい笑顔も、明るい言葉も、前向きな行動も、その全部が天使みたいだって本気で思った。
身を守る術がないのに、何の躊躇いもなく前線に出て仲間の治療しててさ…もうマジで天使なんだよ。
だから俺は、そんなスズを仲間の1人として尊敬してるし、憧れてもいる。
それ以上の気持ちは、なかったはずなんだけど…
練馬に行ってから、スズと皇后崎が急に仲良くなって…何かモヤモヤした。
皇后崎がスズのこと名前で呼んでたり、その度にスズが照れてたり、そういうのがすげー嫌だった。
今まで恋とかしたことねぇから合ってるか分かんねぇけど、でも俺はきっと…スズのこと…
「四季〜?」
「! な、何?」
「いや、何かこっち見てボーっとしてるから大丈夫かなと思って。具合悪い?」
気がついたら、スズが心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでた。
"大丈夫!"って伝えれば、安心したみたいに笑ってスズは歩き出す。
言うなら今しかないって思って、俺は思わず離れてくスズの腕を掴んでた。
「おっと!どうしたの、四季?」
「俺さ……スズのこと好き、かも」
「ふふっ。ありがとう!」
「えっ…!」
「四季はいつもそうやって、私の自己肯定感上げてくれるよね!ありがたいよ〜これからも四季の天使でいられるように頑張るから!」
「いや、ちょ、違っ…!」
背を向けて歩いてくスズに、何て声をかけたらいいか分かんなかった。
スズは間違いなく勘違いしてる。今の"好き"が、いつもの"好き"と同じだって思ってる。
そうじゃないって言いたいのに、代わりになる言葉が全然浮かんでこなかった。
こういう時、自分の頭の悪さに嫌気がさす。
「はぁ〜…」
「四季〜!」
「い、今行く!…あ〜くそっ。ぜってーリベンジする!!」
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