3人を見送った母コンビは、いつも通りの午後を過ごそうとしていた。

掃除をして、少し甘いものを食べながら休憩して、夕餉の買い物に行って、3人の帰りを待つ。

そんな風に過ごすと思っていた…

スズがあの部屋に戻るまでは。





第8話 朝廷 ー後ー





「…あれ?」

「ん?どうしたのスズ」

「帯留めがない…」

「本当だ。さっきの部屋に落としたとか?」

「そうかも。ちょっと取ってくるから、先に行ってて!」

「了解!サボんないでよ〜」

「あははっ!分かってるー!」


そう言って笑顔で出雲と別れたスズは、小走りで召喚陣の描かれていた和室へと向かった。

誰かいるわけではないのだが、そーっと襖を開ける自分に苦笑しながら、スズは室内に目を凝らす。

陣の傍に落ちていた愛用の帯留めは、割とすぐに見つかった。

だがそれを手にした時、不意に畳が光り出す。


「えっ?嘘…!」


召喚陣が何故かまだ機能しており、帯留めを取る時、陣に手が触れたスズを連れ去ったのだった。


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突然のことに目を閉じていたスズは、空気が変わったのを体全体で感じた。

ザワザワする人の声や自分に向けられる冷たい視線に、座り込んだままなかなか顔を上げられない。

朝廷側の女性に刀を預けていた黒城メンバーは、予想外の人物の登場に目を見開く。

戸惑いと驚きを隠せないながらも、すぐに全員が彼女の傍へ駆け寄った。

朝廷との事情を知っている文月が優しく名前を呼びながら体に触れてようやく、スズは顔を上げることが出来た。


「スズ」

「文月…」

「大丈夫か!?」

「うん…!ありがと、嵐丸」

「何でスズがここに…」

「恐らく召喚陣を生きたままにしていたのだろう。そこに偶々スズが触れた」

「わざとか?」

「だろうな。スズが朝廷ここを苦手とするのを知っていてやったとしか思えん」

「ごめん…私が帯留めを取りに戻った時に触っちゃって…」

「スズが謝ることじゃない。それより顔色が悪い…立てそうか?」

「ありがとう…!」

「(上の連中の仕業で間違いない。来れば面白くなるぐらいの気持ちでやったんだろう…胸糞悪い)」


白露の手を借りて立ち上がったスズは、俯きながらもしっかりとした足取りで太政大臣達がいる場所の前まで進み膝をつく。

その姿を見ていた文月は、大切な幼馴染を傷つけた者達を睨みつける。

それから深く息を吐き冷静さを取り戻すと、スズ・白露・嵐丸の順で並んでいる3人の前に行き膝をついた。


「これはこれは…久方ぶりであるな、朝廷の雑用係よ」

「…ご無沙汰しております」

「もしや忙しい我々を気遣って、七条殿が送り込んでくださったのですか?」

「少しでも人手が増えればと思い仕掛けておいたのだが、上手く引っかかったようだ。ちょうどみすぼらしい格好もしているし、存分に働かせればよい」

「はっはっは!これはいい!有難く頂戴いたしますぞ」

「相変わらず何もできぬ阿呆のような顔をしておるわ!」

「(あんな元気ねぇスズ初めて見た…前に言ってた"仲間に入れてもらえない"ってこういうことだったのか…)」


嵐丸は横目で心配そうにスズを見つめる。

初めて会った時に彼女が言っていたことを思い出し、自分のことのように胸が苦しくなった。

白露もそんなスズを護るように、彼女の手に優しく自分のを重ねた。


「大丈夫だ。傍にいる」

「うん…!」

「おいらもいるぞ…!」

「ありがとう」


小さな声で言葉をかけてくれる2人のお陰で、スズの顔に少し赤みが戻った。



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