未だ続いている周囲の嘲笑を咎めることなく、太政大臣・七条は4人に向けて言葉を発した。
神器集めの労を労う発言は形ばかりで終わり、彼の話題は別のところへ飛ぶ。
「しかし何故これまでに報告が遅れた?貴殿は"勾玉"と"手甲"…2つの神器を取り戻しておきながら、その報告を怠った。
幸いにも我々が遣わせた"見張り役"のおかげで、こうして貴殿を此処に召喚できたわけだが。納得のいく説明をしてもらうか」
「…申し訳ありませぬ。ですが此方にも事情が在ったが故のこと。ご理解願いたく」
「事情…?どのような事情だ。申してみよ!」
「……恐れながら、それは帝や上皇陛下がお越しになられてから申し上げまする」
「不敬な…!」
「今、此処で言えぬ理由とは何か!?」
「申せ!花山!」
文月のことを敵のように責め立て、スズに蔑むような言葉をぶつけてくる朝廷の人間達に、白露と嵐丸は疑問を覚える。
本来彼らは皆同じ側であるはず。久しぶり、よくやった!と温かい声をかけ合う関係のはずだ。
それなのに、辺りには殺気を隠そうともしない異様な空気が蔓延していた。
「聞けば其処にいる童…神器"勾玉"をその額に取り込んだとか。その童含め、取り戻した神器をさっさと此処へ差し出してもらおうか」
「…」
「此奴…やはり何か企んでおる!!」
「よもや神器を強奪した妖共と繋がっているのではあるまいな!?」
「神器を何処に隠した!?」
「やはりこのような罪人に!!神器奪還を命じたことが間違いだったのだ!此奴は信用できぬ!!」
「この異端者めが!!」
「我々に背くとは、帝に背くと同じであるぞ!!」
「…私が忠義を誓ったのは、帝ただおひとり。今此処で貴殿方の命令をお受けすることはできませぬ」
「反逆者め!!その者を引っ捕らえよ!!帝の神器をこの者達から奪い返すのだ!!」
七条のその言葉を合図に、周りにいた100名弱の兵士達が一斉に4人の方へ向かって来る。
すぐさま嵐丸を肩に乗せ、スズの手を握り締める白露。
次の瞬間、彼はスズを抱えて飛び上がり、襲って来た1人の兵士の顔を足場にして輪の外へ脱出した。
「白露、ありがとう!でも私のことは降ろして大丈夫。嵐丸を優先して!」
「でも…!」「何言ってんだよスズ!」
「さっきのあの人達の態度見たでしょ?私は雑用係としてからかわれるために呼ばれた。だから殺したりはしない」
「ダメだ!スズだって、捕まったら何されるか分かんねぇだろ!?」
「確かにそうかもしれない。でもどれだけ酷くされても、死ぬようなことにはならない。だから大丈夫!ありがとう嵐丸」
「…ならせめて文月のところまで連れて行く。絶対あいつの傍を離れるなよ」
「分かった…!」
そうして文月の近くでスズを降ろした白露は、幼き半妖を護るため走り出した。
2人の無事を祈りながら後ろ姿を見つめていたスズの背後に、1つの影が忍び寄る。
だがその人物が彼女へ伸ばした手は空を切った。
「こいつに手を出すな」
「文月…!」
「何をしておる!そやつを斬れ!!」
「スズ、お前のことは俺が必ず護る。…もう二度と、この場所へは戻らせない」
そう言って左手で強く自分を抱き寄せる文月に、スズは何度も頷きながら彼の着物をギュっと掴む。
普段とは違うか弱い姿に愛おしさが溢れ、文月は気づかれないよう彼女の髪へ唇を寄せた。
そんな甘い空気を切り裂くように向かって来た兵士に対し、スズを庇いながら体勢を整える文月。
と、その構えた右腕に突如黒い鞭が巻きついた。
「(! 鞭…)」
「お待ちくだされ」
「(この声…!)」
「お忘れですか?そやつの体を斬れば、何が飛び出すかわかりませぬぞ。此処は私にお任せくだされ」
「おお…!豊親殿!」
「都で最強と謳われる豊親殿であれば、文月を捕らえられるぞ!」
「(傍にいる女子は誰だ…?)久しいな文月。その傲慢さは相変わらずか」
「…豊親よ、お前も相も変わらず頭の固い男だな。…此処にいる者が誰だかわからぬのか?」
「?」
「豊親…」
「! スズ…!」
文月の背後から顔を覗かせたスズの顔を見るなり、一時豊親から邪気が消えた。
久しぶりに見る姿に、共に過ごした幼き日のことを思い出し表情が緩みそうになる。
だが自分の記憶にある最後の彼女は、朝廷という場所を忌み嫌っていたはず。
余程の用でない限り、足を踏み入れないと思っていた。
「何で君が此処に…」
「それは、その…」
「先の大臣の発言を聞いていなかったのか?…上の連中の仕業だ」
「(! この期に及んでまだスズをぞんざいに扱うのか…!)」
「それにしても…これだけの兵力を揃えておきながら、何故神器は易々と奪われた?何故結界は破られた?
貴様ら都の陰陽師共は一体何をしていたのだ?なんの疑問も抱かぬまま、貴様らは上の言いなりか」
「……戯言を…」
「! スズ、離れろ!」
豊親の表情から何かを感じ取り、咄嗟にスズを突き飛ばした文月。
直後彼は体の周りを無数の文字が書かれた二重の輪で囲われ、その動きを拘束された。
「文月!」
「(スズ、驚かせてすまない…)妖用の封印術も貴様には良く効くだろう。いつまでも我々に貴様を止める力がないと思うなよ」
そう言うと、豊親は"呼"の札を取り出し術式を発動する。
召喚されたのは、彼に仕える式神"政影"であった。
どこか見覚えのある姿に記憶が刺激されるスズだったが、次に聞こえてきた言葉によってそれらはすべて消し飛んだ。
「あの子供を奪え」
「一緒にいる犬は」
「殺せ」
「!」「そんな…!」
「御意」
口角を上げた政影は、もの凄い速度で獲物との距離を詰める。
そして気づいた時には…
「"異端"の右腕もこんなモンかァ」
「嘘…白露…?」
「殺しちまってゴメンなァ…はーくーろーちゃん」
白露の腹部を、彼の愛刀が貫いていた。
続
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