豊親の式神・政影によって大きな傷を負った白露。

その顔には生気がなく、腹部から流れ出る血が辺りを赤に染めていた。

突然の出来事に嵐丸の目には涙が溢れ、スズの呼吸は大いに乱れる。

その2人が仲間の名前を呼びながら駆け出したのは、ほとんど同時であった。





第9話 千切られた鎖





しかしどちらも白露の元へ辿り着くことはできなかった。

豊親によって身柄を拘束された嵐丸が視界に入り、スズは瞬間的に足が止まる。

"嵐丸…!"と声を発した彼女を近くにいた兵士達が取り押さえ、その場に膝をつかせた。


「痛っ…離してください!白露のところに行かせて!」

「(スズ…!)その者にあまり手荒なことを「放せ!この…っ」

「暴れるな」

「卑怯だぞ!白露は刀も持ってないのに…っ!」

「神器を宿したお前を逃がそうとした。これは我々への反逆行為だ」

「豊親、それは違う!私が白露に嵐丸を護るようにお願いしたの!だから悪いのは私で…!」

「違う!スズも白露も何も悪いことしてないっ!2人ともおいらを護ってくれたんだ…っ!」


スズと嵐丸が拘束され、白露が死にかけている現状を静観していた文月。

だが落ち着いて見えるのは表面だけで、封印術を解こうと体には相当な力が入っていた。


「妙な真似はするなよ、花山。これ以上勝手なことをしてみろ。連れの雑用係と共に、一生牢の中で過ごすことになるぞ」

「…初めからそのおつもりでしょう?貴殿方は初めから私や彼女を信用などしていない。

 あわよくば今日この場で拘束してしまおうというお考えでは?」

「…切れ過ぎる刃というのは嫌われるものなのだよ。

 帝のご意向でこれまで黙認してきたが、貴様のような者が世に放たれていること自体がそもそもの間違いなのだ。

 貴様が従うのは帝のみ。いつ我らに牙を剥くかもわからぬ。不安要素は1つずつ取り除いていかなくては」


文月と七条が睨み合っている間も、白露の生命は着実に死へと向かっていた。

拘束されている2人はその事実に焦り、自分達の態度を改める。


「言う通りにするから…!頼むから…白露の手当てをしてくれ!!」

「私ももう抵抗しません…!何年でも、何十年でもここで働きますから!どうか医家の方達を…!」

「おい…っ!聞いてんのかよっ!白露を助けてくれ!!白露…っ!白露ー!!」

「お願い…お願いします…!」


と、その時…!

突如息を吹き返した白露が、政影へ襲いかかる。

死の淵を彷徨っていたとは思えない動きに誰もが度肝を抜かれるが、どうにもその様子がおかしい。

そこに立っていたのは普段の優しく温厚な白露が想像できないほど、野生に近い状態の彼であった。

瞳孔が開きっぱなしのまま、鼻息荒く相手に向かって行く姿はまさに獣と呼ぶに相応しい。

思わぬ強者の出現に興奮した政影と戦うそんな白露を見て、スズは彼と文月が交わした約束を思い出していた。



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