あの日、白露は黒城の幼馴染コンビと偶然に出会った。

彼の人生において一番とも言える出来事が終結した後、3人は小高い丘で言葉を交わしたのだ。


「白露とやら…余の下で働く気はないか?」

「……なんで俺が」

「お前の力を買っている。今となってはもう・・目的もないのであろう?」

「文月、もう少し言い方を…」

「…文月お前の下で働くなら、1つ条件がある。俺は所詮獣妖怪だ。いつ獣の血に呑まれるかわからない。

 もし俺がそうなったら、お前…死なずに止められるか?」

「無理だな」


真剣な眼差しで見つめてくる白露からの問いかけに、文月は自信満々にそう答えた。

あまりにあっさりと否定の言葉が出たことに、白露はもちろんスズも目を見開く。

だが続けて出てきた言葉に、彼女は幼馴染の横暴な性格を再認識した。


「いやそもそも、何故余がそんなことをせねばならんのだ?面倒な事この上ない。お前の血の都合だ。お前自身でどうにかしろ」

「(こいつ…)ならこの話はなしだ。他を当たってくれ」


言いながら立ち上がり、その場を去ろうとする白露。

しかしそんな彼の立派な尻尾は横暴な城主によってがしっと掴まれる。

そして次の瞬間には、"では帰るか"の一言と共にもの凄い力で引っ張られていた。


「どこにだ!?尻尾を引っぱるな!!」

「ちょっと文月!尻尾がある子の尻尾は掴んじゃダメだってば…!」

「そんなの気にするな、スズ。少しぐらい平気だ」

「それは本人が言うことでしょ!」

「衣食住には不自由させぬ。お前の働きに期待しているぞ」

「だから断るって言って…!人の話を聞けー!!」


男2人のやり取りに苦笑しながら、スズは何とか文月の手を離させる。

そして少し向こうに行っているよう伝えると、今度はスズが白露と言葉を交わす。


「なんなんだ、あいつは…」

「ごめんね。でも…文月はそんなに悪い人じゃないよ?」

「今の行動を見る限り、そうは思えないが…」

「ふふっ。確かに口は悪いし行動も無茶苦茶だけど、根はすごく優しいから。

 …もし本当にさっき言ってたみたいな状況になったら、必ず白露を護ってくれる。私が保証する」


------
----
--


あの時は、そんな状況になる日のことを具体的に想像できていなかった。

もしその日が来るとしても、それはもっと先のことだと…

だが時は思っていたよりも早く来てしまった。今がまさに、白露が不安に感じていた状況なのだ。


「(文月、お願い…白露を護ってあげて…!)」


そんなスズの祈りが届いたかのように、兵士を振り切って戦場へ躍り出た文月。

互いを殺すことしか頭にない2人の間に割り込んだ彼は、腕を拘束されたまま白露の方へ体を向ける。

そして自身に喰いつかせることで、身をもって相棒の動きを止めたのだった。

と同時に、反対側から来た政影によって背中にも傷を負ってしまう。

突然の出来事にその場の全員が息を吞む中、隙をついてスズもまた兵士を振り払い仲間の元へ駆け寄った。


「文月!白露!」

「(ちょうど良い…このまま2人まとめて串刺しに…!)」

「(! まずい…)下がれ、政影!!」


主の命令にそむき突き進んだ政影は、文月の体から出た血液で四肢を拘束され地面へと叩きつけられた。

動きを止めた式神を横目に、スズは文月にもたれながら意識を失った彼の相棒を支える。

白露に膝枕をした状態で幼馴染を見上げれば、術式による拘束を破壊した文月が静かに頷いて見せた。


「豊親。童を此方に渡せ」

「…!」

「渡せ」


文月から発せられる圧と、背後に迫った曼珠沙華が与える不気味さに折れ、豊親は嵐丸を手放した。

幼き妖を片手に抱え、文月は3人を護るように七条と向かい合う。


「花山…貴様!自分が何をしているかわかっておるのか!?」

「この者達は、この先の神器集めの任に必要な私の駒です。

 そして貴殿方が雑用係と呼んでいる木下スズという女子おなごは…私にとって大切な存在です。

 これ以上このくだらぬ内輪揉めを続け、加えて彼女にも害をなすようであれば…ここからはわたくしめがお相手致しますが」


体の傷を治しながら凄みをきかせる文月に、朝廷側の人間は皆恐怖を覚える。

呼吸をするのも躊躇うような静寂の中、不意に聞こえてきた気高く凛とした声…


「…これはなんの騒ぎだ?」

「! み…帝…」


一気に冷や汗をかく七条達が顔を向けた先にいたのは、天下最高君主である帝こと花之宮日向であった。







- 19 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ

章選択画面へ

home