後ろに上皇を伴い現れた、天下最高君主である帝・花之宮日向。

女性と見紛みまごうほどに美しく整った顔立ちに、声音と同じ凛とした佇まい。

だが何よりも嵐丸の目に留まったのは、文月やスズに対する眼差しだ。

他の者達と違い、その目には負の感情が入っていないように感じた。





第10話 本来の姿





「(…あれが…"みかど"…)」

「…怪我人がいるようだな」

「み…帝!危のうございます!どうかお下がりを!!此奴らは奪還した神器を渡そうともせず、一方的に我々を攻撃してきたのです!!」

「ふざけんな!!先に攻撃してきたのはお前らじゃねーかっ!!文月こいつと白露から刀取り上げて…大人数でいっぽーてきに…

 スズにもひでーことたくさん言って…あんなツラそうなスズ、初めて見た……全部全部…嘘つくな、ばかやろー!!!」

「ばっ…!?ふ、不敬な!!もう勘弁なりませぬ!帝!此奴らの処刑許可を…」

「双方、武器を収めよ。それから怪我人全員の手当てを」

「な…なんですと!?」「お気は確かか!?奴らは反逆行為を…!」

「…」

「! も…申し訳ありませぬ…どうか…」

「帝の許可なく陰陽師を斬ることは許さぬ。貴様もわかっていよう、七条」


帝の無言の圧力と、上皇・花之宮蒼士の言葉を最後に、一連の騒動はなんとか収束した。

白露の出血箇所を手で押さえながら成り行きを見守っていたスズも、ようやく安堵の息を吐くのだった。

場が落ち着いたとあれば、次なる願いは仲間の治療だ。

少しでも早く白露を医家の者達のところへ…と顔を上げたスズの耳に、再びあの凛とした声が聞こえてくる。


「花山文月。まずはそなたの話を聞かねばなるまいな。

 此処では話が拗れそうだ。蒼士様、この者と…後ろに控えている女子を奥座敷へ招いても構いませぬか?」

「ふむ…」

「お…お待ちを!我らも…同席する権利がございまする!!」

「控えよ。このような騒ぎを起こして何を申すか。少しは頭を冷やせ、七条」

「あ、あの、帝…!」

「ん?何だ?」

「白露…妖であるこの者の治療も、していただけるのでしょうか…」

「無論だ。すぐに医家の者に診せる。安心せよ」

「ありがとうございます…!」


スズからの申し出に優しく言葉を返した日向は、僅かに口角を上げる。

それは七条をはじめとする家臣達には決して見せない、穏やかな微笑みであった。


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医家の者によって運ばれて行く白露の付き添いを嵐丸に任せると、幼馴染コンビは場所を移動する。

慣れた足取りで廊下を進む文月と日向の後ろを静かについて行くスズ。

だが奥座敷へ到着し、中へと入って行く2人とは違い、彼女はその手前で足を止めた。

隣を歩いていた蒼士から"入らぬのか?"と聞かれれば、スズは笑みを見せながら頷く。


「はい、私はここで。お話は、帝と文月の2人だけの方が良いと思いますから」

「帝、如何する?」

「…文月、中に入って少し待っていてくれるか。彼女と話したいことがある」

「え、私と?」

「分かった」

「では私も席を外していよう」


あれよあれよと話が進み、気づけばスズは日向と2人きりになっていた。

風が木々を揺らす音だけが聞こえる中、沈黙を破ったのはスズの方であった。


「日々お忙しいと思いますけれど、体調崩されたりしてないですか?」

「…」

「帝?どうされました?」

「…スズ」

「はい」

「…昔のようには話してくれぬのですか?」

「えっ、あ、いや…どこで誰が聞いているか分かりませんから。帝にご迷惑をかけてしまいます」

「蒼士様が人払いをしてくださってるから平気です。だから…」


寂しそうな表情でそう訴える日向の姿に、スズは幼き日の彼が重なる。

何かあるとすぐに涙を流し、不貞腐れたような顔で泣き言を漏らす彼を何度慰めたことか。

年齢や位がどれだけ上がっても、スズの前ではいつだって少年のような表情を見せるのだ。


「…そんな顔してると、蒼士様に怒られちゃうよ?日向」

「! スズ…!平気です。今は誰も見てないって言ったでしょ?」

「ふふっ。そうだったね」

「……ごめんなさい」

「へ?ど、どうしたの急に」

「あの童が…スズが酷いことたくさん言われたって、言ってたから…謝りたくて」

「そのためにこの時間を作ってくれたの?」

「だってスズ…ツラい思いしたでしょ…?」

「確かに嫌なことは言われたけど、それは日向のせいじゃないし、ましてや謝ることなんか何もない。

 むしろ日向がそうやって私のことを考えてくれてるって知れて、今すごく嬉しいよ!ありがとう」

「スズ…」

「もう〜すぐそういう子犬みたいな顔する〜」

「スズの前でだけです…!」

「ならいいけど!ほら、そろそろ"帝"の顔に戻さないと。文月が待ってるよ」

「……うむ。行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


大きく深呼吸をした日向は、再び"帝"としての風格を纏う。

丁寧に頭を下げるスズに送り出され、彼は奥座敷へと入って行ったのだった。



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