「帝は無事に行ったのか?」
「蒼士様…!」
帝を送り出したスズの元に、席を外していた蒼士が戻って来る。
慌てて廊下の端へ寄り、頭を下げるスズに対し、"そんな間柄ではないだろう?"と彼は笑顔を見せた。
文月と幼馴染である彼女のことは昔から知っており、娘のように可愛がっていたのだ。
その関係性は自身が上皇となり、スズが朝廷を去った今でも変わることはない。
「2人の話が終わるまで、私の部屋で少し話さぬか?」
「はい、喜んで!」
そうして移動した先で、スズと蒼士は久しぶりの会話を楽しむ。
人払いはここでも効果を発揮し、2人の間には和やかな空気が流れていた。
「それにしても、日向は相変わらずスズに甘えておるな」
「そんなことないですよ…!しっかり"帝"という立場を全うしておられると思います」
「普段はそうなんだが…どうもそなたの前になると、昔に戻ってしまうようだ」
「ふふっ。あの可愛らしさは、上に立つ者としては必要ないかもしれませんが、いつまでも忘れないで欲しいと願ってしまいます」
「スズがいてくれる限り、その点は安泰だと思うぞ」
そう言ってスズへ向けた蒼士の笑顔は、先程の厳しい姿が想像できないほど柔らかであった。
しばらく他愛のない話を続けていた2人だったが、不意に蒼士が表情を変える。
「ところで、文月とはどうなんだ?」
「どう…とは?」
「昔からお似合いだと思っていてな。…まだそういう仲にはなっておらぬのか?」
「そ、そういう仲もなにも…私と文月は、ただの…幼馴染ですから…!」
「(ほぉ…あの自信家の文月がまだ何も伝えておらぬのか。珍しいこともあるものだ)」
「でも…大切にしてもらってるのは、すごく…感じてます」
「そうか」
「はい…!まぁあの性格ですから、分かりにくいんですけどね」
幸せそうに笑うスズを、蒼士もまた穏やかな表情で見つめる。
彼が望む未来にはまだ時間がかかりそうだが、着実に進んでいることが分かっただけでも良しとするべきだろう。
「少しずつ準備を進めておかねばな」
「?」
「ふっ、こちらの話だ。やはりスズは必要不可欠だな…あの兄弟にとって」
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「帝よ、お前は当然知っていたのだろうな?神器が妖の力を増幅させることを」
「…」
「何故、帝の宝物が妖に力を与える?神器は一体…なんなのだ?」
「…それは言えぬ。そなたが陰陽師である限りはな。そなたもわかっていよう。
神器の"真実"を知ること許されるのは、帝と一部の皇族のみ。そなたが…本来の姿に戻るのなら、これを正統に引き継げる。
だからスズと共に帰ってこい、文月……いや、兄上…」
兄・花山文月と、弟・花之宮日向。
2人とスズの出会いは今から10年ほど前に遡る。
続
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