だが転機は突然訪れる。
それは父親がいつものように、朝廷で行われる陰陽師の会合に出席した時のこと。
時の帝・花之宮暁の意向で、家族がいる者は朝廷へ連れて来ても良いということになっていた。
男達が広間で話し合いをしている間、妻同士・子供同士で交流をするのが会合開催時の当たり前の風景であった。
スズの父親も何度か娘を連れて来ようと画策したのだが、傷ついた子供心はなかなか回復せずにいた。
「(スズもいつか来れるようになるといいんだが…)」
「木下殿」
「帝!何でしょうか?」
「そなたにも子がいなかったか?いつも姿が見えないような気がしてな」
「気にかけていただいて恐縮です。何度か声をかけているのですが来たがらず…申し訳ありませぬ」
「謝ることはない。…何か理由が?」
「…実は少し前に、自身の能力について同じ歳の子達からからかわれまして。それ以来ちょっと…」
「そんなに変わった力なのか?」
「私と妻はとても素敵な力だと思っておるのですが…いわゆる陰陽師たる所以の、妖を倒す力ではないのです」
「ほぉ。というと?」
そう問われ、スズの父は娘の力について簡単に話して聞かせる。
戦いには関係のない雅なものを出すのだと伝えると、暁は大層興味を持った。
他の者や子供達がいる時は連れて来なくていいから、自分と会う時間を設けてくれないかとまで言ってきたのだ。
帝に頼まれたとあっては、断るわけにもいかない。
数日後、乗り気でない娘を連れて父子は再び朝廷へと馳せ参じた。
普通であれば身分の低い者が先に挨拶をするのだが、正座して俯くスズは分かりやすく殻に閉じこもっている。
それを微笑ましく見つめていた暁は、気さくに声をかけた。
「俺は花之宮暁。これでも一応帝をしておる。そなたの名も教えてくれぬか?」
「…木下スズ、と申します」
「スズか!良い名だな。今日は来てくれてありがとう。突然で驚いたであろう?すまなかったな」
「いえ…!」
「ほれスズ、力をお見せしなさい」
「……笑ったり、怒ったり…しませんか?」
「これ!」
「もちろん。そなたの力を見るのを楽しみにしていたのだから」
暁の優しく穏やかな笑顔に少し心を開いたスズは、手始めに一輪挿しに入ったキレイな花を出して見せた。
花の色彩や花瓶の美しさに目を見開いた暁は、思わず下座へ駆け寄ってくる。
実際に手に取り、眺めれば眺めるほど、その目はキラキラと輝いた。
「すごい…!スズ、他にも何か出せるのか?」
「はい…お菓子や着物なども、出せます…」
「ぜひ見せてくれぬか?」
それからスズは次から次へと美しい品々を生み出していく。
どれもこれも今まで見たことのないものばかりで、暁はすっかり彼女の力の虜になった。
「スズ、そなたは素敵な力を持っておる。何も引け目を感じる必要はない」
「!」
「もっと自分の力を誇って良い。もし何か言ってくる者がいれば、俺がやっつけてやろう!」
「ふふっ」
「ふっ。ようやく笑顔が見れたな。スズは笑っていた方が可愛い」
「あ、ありがとうございます…!」
「これほどの力を俺は見たことがない。木下殿、そなたの娘は素晴らしいな!」
「お褒めに預かり光栄でございます…!」
父と娘が揃って頭を下げると、暁はまた朗らかに笑うのだった。
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