あの日以来、自分の力に改めて自信を持てるようになったスズ。

文月達の前で術式を披露し、満面の笑みを向けられる度、彼女の笑顔も増えていった。

そして両親が名付けてくれた風優方士という肩書きは、再びスズにとってかけがえのないものになったのだ。





第12話 雅血の兄弟 ー前ー





互いに唯一の友人ということもあり、スズと兄弟は頻繁に会うようになった。

時に朝廷で、時に木下家で、時には揃って町に買い物へ出たりもした。

そんな日々を過ごしていれば、当然呼び方も変わってくる。

文月様・日向様から文月さん・日向さんへ、そして今では…


「スズ、遅いぞ」

「ごめん、文月…支度に手間取っちゃって…!」

「スズ、早くこちらへ!」

「わっ、待って日向…!」


門前で待ち構えていた兄弟に連れられ、スズは屋敷の中へと入って行く。

3人の楽しそうな様子を笑顔で見守る帝と蒼士。

スズと文月は共に10歳を迎えていた。


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数日後…

術式で新たなお菓子を生み出したスズは、お裾分けをしようと朝廷を訪ねた。

顔見知りの兵に門を開けてもらい中へ入れば、たまたま通りかかった蒼士に出くわす。


「あ、蒼士様!こんにちは!」

「おぉ、スズか!よく来たね。今日はどうした?」

「術式で美味しいお菓子が出来ましたので、文月達にお裾分けをと思いまして…!蒼士様もおひとつ如何ですか?」

「私の分もあるのか?であれば遠慮なく……うむ!相変わらず美味であるな〜いくらでも食べられそうだ」

「良かったです!」

「おっと、文月達に会いに来たのだったな。だが生憎兄弟は今ここにはいないんだ」

「そうですか…ではまた日を「いやいや!改める必要はない」

「?」


キョトンと自分を見上げてくるスズに微笑みかけると、蒼士は兄弟の行方について話し始める。

少し前に帝と日向が何やら言い合いをしていたこと。

半ベソの日向がドタバタと屋敷を出て行ったこと。

そしてそれを追いかけるように、文月もまた外へ出て行ったのだということを…


「ふふっ。日向はまた泣いてしまったのですね」

「相変わらず泣き虫でな。まぁ屋敷を出ては行ったが、大方奥の森にでもいるであろう」

「あの庭の外れにある森のことですか?」

「そうだ。スズさえ良ければ、その菓子を持って2人を迎えに行ってやってくれぬか?」

「もちろんです!」

「ありがとう。我が甥っ子ながら、面倒をかけてすまぬな」

「2人に会えるならお安い御用です!」


"いってきます"と笑顔で頭を下げてから、スズは森の方へと向かった。

しかし敷地内にあるとはいえ森は森。

そう簡単には見つからないかも…と早速心が折れかける。

それでも名前を呼びながら木々をかき分け歩いていると、微かに人の声が耳に入ってきた。


「ぐふっ!くーくくく…!!」

「兄上!!」

「やっぱり!」

「「スズ!」」


聞き覚えのある笑い声に、"兄上"という単語。

我が友人だと確信しながら草むらを覗き込めば、思った通りの顔がそこにあった。

大笑いしている文月と、何故かおでこに傷ができている日向。

兄の方から事の経緯を聞くと、スズも控えめながら笑ってしまった。


「スズまで酷いです!」

「ごめんごめん!日向があんまり可愛くて」

「そういうことだ。…どれ、傷を見せてみろ。フム、血は出ていないか」

「こぶにはなっちゃうだろうけど、傷跡は残らなそうだね」

「兄上は…やっぱりすごいです。和歌も舞も剣術もできて…陰陽道の才もある。

 次に即位されるのは兄上です。僕が何を学んでも意味などありませぬ」


不貞腐れ俯いている日向を見て、スズと文月は微笑みながら顔を見合わせる。

文月にとってはもちろんだが、スズにとっても日向は可愛くてしょうがない弟なのだ。

兄は顔の汚れを、友人は目元の涙を拭いながら、幼き少年へ声をかける。


「ほら日向、そんなに泣かないの」

「うぅ…」

「…お前は意味などないと申していたが、そうとも限らん」

「うっぷ」

「俺に何かあれば、帝となるのはお前なのだぞ。心配せずとも、お前は俺にはない才がある」

「兄上には…ない…?」

「いずれわかる。そら、気晴らしに剣の稽古でもするぞ」

「うっ…兄上の剣術稽古激しいんだよなぁ…」

「文句を言うな。スズも来るだろ?…って、そういえばスズは何故ここにいる?」

「そうでした…!」

「あ、えーっと…美味しいお菓子ができたからお裾分けをと思って…」

「えっ、本当ですか!?」

「これはいい褒美ができたな。稽古が終わったら3人で食べるか」

「はい!」「うん!」


日向を真ん中に、3人は手を繋いだまま森を後にする。

その顔はどれもキラキラと輝いていた。



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