それからまた数日が経ったある日…

スズは朝廷の大広間が見える位置にしゃがみ、庭にある茂みの中から様子を伺っていた。

今、広間では帝と陰陽師達が集まり定例会が行われている真っ最中だ。

当然ながらスズをはじめとする子供達は参加できないのだが、例外が2人だけいる。


「(うわ〜文月も日向も眠そう…)」


後継ぎという立場故、兄弟は帝と共に上座に座り、会議に参加していた。

とは言ってもただ話を聞いているだけなので文月は実に退屈そうだし、日向に至っては睡魔と戦うのに必死である。

今の彼らを支えているのは、この後に控えているスズとの楽しい時間だけ。

時折チラッと視線を庭に向けると、文月はその度に彼女が隠れている辺りに目をやっては少し笑みを見せる。

最初は嬉しくなってスズも手を振り返したりしていたのが、あまりに頻繁にこちらを見てくるのでさすがにマズイと思い始めた。


「(あれじゃいつかバレて怒られちゃうよ…何とか注意しないと…)」


そして思いついたのは、自身の力をフル活用することであった。

術式で半紙と筆を出すと、キレイな字で"集中して!"としたため文月に見えるよう掲げた。

思いがけない光景に目を見開いた文月だったが、次の瞬間には破顔し、小さく頷くのだった。


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1時間後、ようやく会議が終わり場は解散となる。

一目散に庭へと駆け出した文月は、満開の笑顔でスズと合流した。

日向はといえば、直後に眠り込んでしまったため、蒼士によって部屋へと運ばれていた。

彼の相変わらずの可愛さに、スズもまた笑顔の花が咲く。


「ふふっ、相変わらず可愛いな〜日向は」

「まだまだ子供だからな」

「文月もでしょ」

「うるさい。それよりスズ!さっきのはお前の術式か?」

「そう!文月があんまりこっち見るから、注意しようと思って」

「フム…」

「どうしたの?」

「いや、さっきみたいにスズとやり取りができれば、退屈せずに済むと思ってな」

「こらこら。変なことに頭使わないの。ちゃんと聞いてないとダメだよ?」


そんなスズの言葉がまるで届いていないのか、文月は真剣な顔でなにやらブツブツと呟いている。

せっかく自由時間になったのに…と不満そうに、でも静かに横で待つスズ。

そろそろいいかなと思い声をかけようとした途端、天啓を得たようにパッと文月の顔が輝いた。


「そうだ!それがいい」

「へ?」

「スズ、俺とお前の間で会話をするための合図を決めよう」

「合図…」

「さっきは頷くしかできなかったが、その種類を増やせばもう少し会話ができる」

「例えば?」

「右耳を触ったら肯定の返事、左を触ったら否定の返事」

「おぉ!」

「頭をかいたら"退屈だ"、鼻を触ったら"大丈夫"、顎を撫でたら"眠い"」

「すごい!じゃあお腹を触ったら"お腹空いた"ね!」

「ふっ。あぁ、そうしよう」


この程度の合図でスムーズに会話ができるわけはない。

しかし2人にとっては、秘密の暗号のようでワクワクが止まらなかった。

その後も時間が許す限り、2人は自分達だけが分かる合図を決めていく。

それは何事にも代えがたい、素敵な時間であった。







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