目を開けると、そこは見慣れたあの和室であった。
ようやく心と体が落ち着き、スズはふーっと息を吐く。
そんな彼女のもとへ飛んでくる1つの影。
突然の衝撃に驚くスズを強く抱き締めていたのは、お留守番の出雲であった。
第14話 雅血の兄弟 ー後ー
「スズ…!」
「出雲!」
「どこ行ってたの!?急にいなくなるから…すごく心配した…」
少し震える声でそう言った出雲は、ますます抱き締める力を強くする。
それも当然だ。
一緒に家事をやろうと思っていたのに、待てど暮らせどスズが帰ってこない。
和室へ見に来てみれば、いるはずの人物が忽然と姿を消していた。
城内はもちろん、城の周辺を捜しても手がかりは全くなく、不安な気持ちを抱えたまま1人待機していたのだ。
「ごめんね。私も何が起きたのかわからなくて…」
「…」
「本当にごめんなさい…」
「違うんだ…怒ってるわけじゃない。ただ…もうスズに会えないかもって思ったら…すごく怖かった」
「出雲…」
「…無事で本当に良かった」
「うん。ありがとう…!」
「……もう少し、このままでもいい?」
"いいよ"と返す代わりに、スズは出雲の体をギュっと抱き締め返す。
その行動に安堵の笑みを見せ、彼はスズの肩に顔を埋めるのだった。
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その夜…
各自風呂で汗と疲れを洗い流し、皆で夕餉を終えると、黒城に静かな時間が流れ出す。
スズと嵐丸が部屋で遊んでいる頃、父コンビもまた共に時間を過ごしていた。
向かい合う白露の頭に札を貼ると、文月はその前に座り何やら手を動かしている。
「なんだこの札…」
「治癒を促す咒いの札だ。どれ、手にも書いておくか」
「…偉く手厚いな」
「まぁ此度はそこそこ無理をさせたからな。あの"政影"とかいう妖…お前に対抗するため用意された式神であろうな。
あそこの連中には俺も何度か殺されかけたことがあってな。此度は童もいたが故、お前を同行させたのだが…奴らそれも読んでいたらしい」
「随分仲が悪いんだな」
「奴らとは昔から馬が合わんのだ」
「…スズもすごくツラそうにしていた」
「あのジジイ共の態度を見れば、スズがどんな扱いを受けてきたかわかるであろう。だからもう二度と…スズを朝廷へは行かせない。
とにかく今宵はよく休め。お前が戦えぬと色々困る」
「文月」
「?」
「俺を同行させたのは、嵐丸を守るためか?」
「まだアレに死なれては困るからな」
そう言って、文月は自室へ戻るべく廊下を進む。
と、途中の部屋から嵐丸がひょこっと顔を出した。
障子に隠れながらモジモジしている彼を、文月は不思議そうに見つめていた。
「何をしている。お前も早く寝ろ」
「…」
「ほら、嵐丸」
「…っ……助けてくれて……ありがとう」
小さな声で紡がれた言葉は、しっかりと城主の耳へと届いた。
言い終えてから一目散に走り去る幼き妖を微笑ましく見つめながら、スズもまた文月の前に姿を見せる。
「2人で何をしていたかと思えば…阿呆な餓鬼だな」
「可愛いの間違いじゃない?」
「…うるさい」
「ふふっ」
「それより…もう決まったのか?」
「へ?」
「俺に何をして欲しいか考えておけと言ったであろう?」
一転して表情を変えると、文月は妖しく微笑みながらスズの顎に手を添えクイと持ち上げる。
間近に迫る色男にドキドキしながらも、スズは考えていた案を口にした。
「あ、うん、あの、いろいろ…考えたんだけどね…」
「あぁ」
「一緒に月見酒するのがいいかなって思ったの」
「……は?」
「昨日文月も言ってたじゃない?帰って来たら一緒にお酒飲もうって!」
「いや、まぁ…それは言ったが…」
「…気分じゃない?」
「(もう少し色気のある案が出るかと期待したが…昔からスズはそういう女子ではなかったな)
いや、お前と静かに酒を飲むのは久しぶりだからな。悪くない」
「良かった!あ、でも…お酒とおつまみ準備できなかったから、今あるものになっちゃうけどいい?」
「構わぬ。…隣にスズがいれば良い」
幼馴染の言葉に照れ臭そうな表情を見せたスズは、準備のため台所へと向かう。
その後ろ姿を愛おしそうに見つめてから、自室へと足を進める文月なのであった。
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