外に面している障子を開け、夜風のあたる場所に腰を下ろす文月。

星が瞬く空には、それは見事な満月が浮かんでいた。

心身ともに疲れる1日であったが、何とか全員無事に帰城できた。

そしてこの後は、大切な相手とのかけがえのない時間。

文月の表情は珍しく穏やかであった。


10分ほど経ったであろうか。

背後の障子が開く気配を感じ、文月は外に向けていた視線を部屋の方へと戻す。

すぐに明るい声が聞こえ、酒と肴を運んでくるスズが視界に入るはずだった。

しかし次に彼が感じたのは、背中に触れる体温であった。


「スズ…?」

「……ごめんね、文月」


呼びかければ、返ってきたのは謝罪の言葉。

文月の背中に少し頭をくっつけたまま、スズはもう一度"ごめん"と伝える。


「何に対する謝罪だ?謝られるようなことをされた覚えはないが」

「…守れなかった、から」

「!」

「あんなに酷いこと、たくさん言われてたのに…私、何も反論できなかった。

 昔は…もう少し、対抗できたのに…朝廷(あそこ)に行くと、いろいろ思い出しちゃって…

 頼りない幼馴染で…本当にごめん」


聞き終えた文月は、1つ大きく息を吐く。

それを相手が怒っているからだと思い、スズはサッと体を引いた。

だが次の瞬間…

くるりとこちらを振り返った幼馴染に、彼女の体は抱き締められていた。


「ふ、文月…?」

「…お前は馬鹿者だ。俺のことばかり気にして…スズも似たようなことを散々言われていたではないか」

「私のは、ただ馬鹿にされてるだけだから!全然何とも…!」

「スズが良くても……俺は我慢ならぬ」

「えっ」

「自分にとって大切な女が、あのように罵詈雑言を浴びせられて…普通でいられるわけがないだろう」

「ありがとう。…でもやっぱり文月に向けられてる言葉は、酷すぎるよ…」

「あんな連中の言葉など耳に入っていないから気にするな。仮に入っても、心に影響を及ぼすような力はない。

 …俺の中には、スズから貰ったたくさんの言葉がある。そのすべてが、俺をずっと守ってくれてる。連中の戯言が入る隙などどこにもない」

「本当?私、そんなすごいこと言った覚え…」

「言っておる。幼馴染を疑うのか?」

「そ、そうじゃないって!」

「ふっ。案ずるな、俺は強い。スズが傍にいればなおのことな」

「うん!」


ようやく笑みが戻ったスズは、幼馴染の背中に腕を回す。

彼女の行動に愛おしさが溢れ、文月はさらに強く抱き寄せた。


「…スズ」

「ん?」

「今宵はお前を離したくない」

「へっ!?」

「朝まで俺といろ。良いな?」

「断ったら…?」

「動けないように、このまま足腰立たなくなるまで抱く」

「ひっ…!」

「冗談だ」

「じょ、冗談に聞こえないから!でも…」

「なんだ?」

「私も今日はなんか文月と一緒にいたい気分だから、ここにいさせてもらおうかな…!」

「(はぁ〜…これは冗談のままにできるか試されてるのか?)」

「文月?」

「(まぁ耐えられなかったら…スズのせいということにしよう)

 すまぬ、少し考え事をしていた。ではまず乾杯でもするか」


お酌をし合い、互いのお猪口を軽く当ててから口へと運ぶ。

長かった1日が幕を閉じようとする中、2人だけの月見酒はもう少し続きそうだ。



第1章 完



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