辺りが闇に染まり始めると、電灯がないこの時代では徐々に視界が悪くなる。

月明りを頼りに嵐丸の家を見張っていたスズは、見えづらさを補うように少しそちらへ近づいた。

それからしばらくして、家から不意に嵐丸が姿を見せる。

と、思えば次の瞬間…!

明らかに怪しい気配を醸し出す単眼の妖が、彼の方へと歩み寄って行った。





第2話 異端の者 ー後ー





すぐに術式で折り鶴を生み出すと、文月の元へと飛ばすスズ。

嵐丸と妖がいるところまでは距離があり、両者の会話までは聞くことができない。

だが嵐丸の手から、何か小さいものが妖に渡るのは見ることができた。


「(! あれってもしかして…神器!?)」


文月たちに追われていた妖は、追跡を逃れるため一時的に神器を嵐丸へ預けたのだ。

そして今、それを再び手にするべく彼の元へ戻って来たというわけ。

つまり、役目を果たした嵐丸はもう用済み…


「(嵐丸が危ない…!)」


そう直感したスズが駆け出すと同時に、妖は予想通り嵐丸に襲いかかる。

小さい体を押し潰すように体重をかける妖は、背負っていた鉈のような武器を振りかざした。

スズは術式で着物の帯を取り出すと、鞭のようにしてそれを妖の右手に巻きつける。


「あ?」

「その子から手を離して!!」

「! スズ…!」


突然動きを止められ不機嫌になる妖だったが、その力が思いのほか弱いことに気づくと嫌な笑みを見せる。

よく見れば、自分の腕に巻かれているのも単なる帯だ。

瞬間的に相手が弱いと判断した妖は鉈を持ち替え、右腕をグンッと自分の方へ引き寄せる。

帯と共に引っ張られたスズは宙を舞い、妖目掛けて一直線に落ちて行った。

このまま行けば、鉈で真っ二つにされてしまう。

スズは慌てて帯を解除し、続けて自分が出せる中で一番硬いであろう盾を生み出した。

間一髪で鉈は盾にあたり体の真っ二つは避けられたものの、あたった衝撃でスズ自身の体はかなりの高さから地面に落下した。

意識を失った彼女の元へ、嵐丸は急いで駆けつける。


「スズ、大丈夫か!?目開けてくれよ!」

「はっ。陰陽師のくせにこんなもんしか出せねぇとはな!弱すぎて反吐が出るぜ!」

「やめろ!おいらの友達を悪く言うな!」

「嵐丸…逃げて…」

「嫌だ!!スズを置いて行きたくねぇよ!」

「大丈夫…もうすぐ、強い陰陽師が…来てくれる、から…」


嵐丸の声にうっすら意識が戻ったスズは、この幼き半妖を守るべく何とか逃がそうとする。

だがその想いとは裏腹に、嵐丸はその場を動こうとしない。

むしろ再び襲いかかろうとしてくる妖に対し、スズを守るように立ち上がってしまう。

力を振り絞って自分の前に立つ小さな体を抱え込むと、スズは来たる衝撃に目を瞑った。


「ぎゃあああ!ちくしょおお!いでェエエ!くそがあああ!しつけえんだよ、てめェエ!このクソ陰陽師がァアアア!」

「騒ぐな、不敬者。やかましい」


痛みの代わりに感じたのは、聞き慣れた涼やかな声だった。

安心したスズはまた意識が朦朧とし始め、嵐丸を抱き締めていた腕から力が抜けていった。


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折り鶴に導かれて昼間の場所に戻った文月と白露。だがそこにスズの姿はなかった。

嫌な予感を感じ、2人はすぐさま単眼妖の元へ向かう。

誰かに襲いかかろうとしていた妖を斬りつけた文月は、白露と共に辺りに目を配る。

そこに来てようやく、2人は妖の前に倒れていたのが捜していた人物であると認識した。

珍しく目を見開いた文月だったが、すぐにいつもの冷静さを取り戻し、スズを抱き起こした。


「文月、スズは!?」

「とりあえず斬られてはいない。童!状況を説明しろ」

「あいつの腕を、帯で縛ったら…引っ張られて、高いところから、落ちたんだ…!」

「…折れてるか?」

「いや、触った感じ腫れているところはなさそうだが…意識が戻らないのが気になる」

「さっきおいらが呼んだ時は、少し意識があった!でも…お前が来て、声が聞こえた途端…スズの力が抜けたんだ」

「!」

「安心したのかもな」


白露の言葉に、文月は今一度スズに目を向ける。

確かにその表情は比較的穏やかに見えた。

それが自分の存在によるものだという…

内から溢れそうになる母性に似た何かを抑えきれず、文月は優しくスズを抱き締めた。


「文月…白露…」

「「スズ!」」

「2人とも、ごめん…面倒かけて…私は大丈夫。ちょっと体打っただけだから…!」

「…帰ったら俺の部屋で説教だからな」


スズの耳元に口を寄せた文月は、先の抱擁とは真逆の厳しい口調でそう告げる。

無茶をするな。傷つくことはするな。

そのどちらの約束も反故ほごにした向こう見ずな幼馴染には、お灸を据えねばならないのだ。

シュンとした表情で"はい…"と返事をするスズに、文月は一瞬楽しそうな笑みを見せた。


「だがその前にアイツを片づける。少し待っておれ」

「うん」

「気持ちの良いものじゃないからあまり見ない方がいい」

「ありがとう」


微笑みながら顔を覗き込んでくる白露にそう伝えるスズ。

そんな彼女を草むらの上に寝かせると、文月は治癒を促す札を頭にはりつけてから単眼妖を振り返った。


「盗っ人。貴様には聞きたいことが山ほどあるが…まずは宝物庫から盗んだ神器を返してもらおうか」

「寄るんじゃねェっ!この餓鬼を殺すぞ!」

「嵐丸!」

「別に構わぬ」

「!?」「ちょっと文月…!痛っ…」

「スズ、動いちゃダメだ。安静に」

「その童は余に嘘を吐かした。どうなろうと知ったことではない。なんならその隙に貴様の四肢を斬り落としてくれる」

「くくく…好都合だ。やってみせろ」

「(こいつらどっちも悪い奴じゃん…スズ、助けてくれー!)」


文月の過激な発言に、スズは思わず体を起こしてしまう。

傍で守るように立っていた白露に止められていなければ、また無茶をしていたことだろう。

と、その時…

単眼妖が手に持っていた神器・勾玉を口に放り込んでしまった。

その場にいる全員が、予想外の出来事に言葉を失う。

呻き声をあげながら体を震わせる妖は、突如弾けるようにして姿を変えた。

飛んできた嵐丸を受け止めつつ攻撃をかわした文月は、スズと白露がいる場所まで戻って来た。


「あれ何なの…?何かさっきより強くなってる気がするんだけど…」

「(スズの言う通り…あやつ、神器を喰らって妖力が増した。どういうことだ…神器の力が妖に作用しているというのか。考えている時間はないか…)

 白露、斬り込め。奴の動きを一度封じる。スズの周りには結界を張るから心配するな」

「了解」

「童。お前はあの妖の手下か?」

「ち、違う!おいら、アイツに脅かされて…!」

「文月、信じてあげて!この子は私の友達なの…!」

「…まぁいい。お前にも後でたっぷり話を聞かねばな。スズ、この童を頼む」

「分かった!」


白露が斬り込んだことで動きが鈍った妖に、ふわりと舞い上がった文月が無数の札を貼りつける。

そして呪文を唱えれば、妖は電流に撃たれたように丸焦げになった。

が、それで倒れるわけではなく、妖はさらに力を増し文月に向かって来たのだ。

右腕を喰われた若き陰陽師は、ボタボタと血を流しながらも余裕の笑みを浮かべる。

残った手で妖に刀を刺し、相手が怯んだ隙に右腕を残して体を離す文月。


「貴様に妙技を魅せてやる」


そう告げた彼は、自身の血で妖の周りに檻を造り出す。

出られないと騒ぐ妖に冷めた目を向ける文月の右腕は、摩訶不思議なことに元の状態へと戻っていた…


「言え。神器を盗んだ目的はなんだ」

「へっ…誰が人間なんかに話すか……ぎぃやぁああ!いでェエ"エ!!わ、わかった…言う!!言うからあアア…!

 俺は…聞いたんだ…っ。"神器"を手に入れれば力が手に入るって…」

「聞いた?誰から」

「妖、みんなだよ…俺の森では噂になってた…」

「"勾玉"以外の神器はどこだ。他の仲間はどうした?」

「仲間じゃねえよ!俺は森で"勾玉コイツ"を奪い取った。他の奴らのことなんか知らねェ!」

「行方を知らんのか?」

「何も知らねぇ…本当に…知っていることは全部話した…っ」

「…そうか。ではお前を生かしておく理由ももうないな」

「スズは見なくていい」


妖に止めを刺そうとする気配を察し、白露は後ろからスズの目元を手で覆った。

彼女の傍で一部始終を見ていた嵐丸は、目の前で起きた刺激的過ぎる出来事に呆然としていた。

そうしてふと目線を下げた時、皆が探し求めていた勾玉が足元に転がっているのを見つけるのだった。



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