その音は風に乗って聞こえてきタ。

楽器の名前は知らないけド、何か笛っぽい音。

それが無性に気になったのは、昔聞いたことがある音と同じだったカラ。

キミを思い起こせさせるその音は懐かしくて、でもどこか違ってタ。

キミはもっと上手だったよネ。こんなに止まったリ、調子を外したりしなかっタ。

だけどその不器用であったかい音が心地良くて…

気がついたら、音の鳴る方へ足が向かってたんダ。





第15話 女人の館 ー前ー





その日、黒城はいつになく穏やかだった。

来訪者もなく、何か大きな集まりがあるわけでもなく…

それぞれが自由に好きなことをしていた。


スズといえば、天気の良さも相まって日課の散歩へ。

愛用の巾着の他に、今日は背中に"龍笛"と呼ばれる横笛を背負っている。

というのも、最近スズは時間を見つけては近くの丘へと出向き、そこで笛の練習をしているのだ。

キッカケは、文月が上手に吹いているのを羨ましく思ったからとか、そうではないとか…


------
----
--


この日もいつもの丘へ到着したスズは、早速笛を取り出し吹き始める。

文月からコツを教えてもらっているが、そう簡単に上手くなるわけもなく。

つっかえたり、変な音を出したりと悪戦苦闘しながら頑張っているのだった。

1時間ほど練習をし、休憩がてら喉を潤していると、不意に背後から声をかけられた。


「キミ、あんまり上手じゃないネ」

「!」

「(あれ?この子どっかで見たようナ…)練習中?」

「(え、普通に話しかけてきてるけど…妖、だよね?)あ、は、はい!まだ始めたばっかりで…!」

「そうなんダ」

「…き、聞いておられたんですか?」

「うん。下手だな〜って思いながら聞いてたんだけド…」

「うっ…」

「気づいたらここにいた」

「えっ」

「…隣、座ってもいい?」


鮮やかな金髪と右耳に飾りをつけた男にそう聞かれ、スズは戸惑いながらも了承した。

相手のどこか中国を思わせるような服装や足元に興味をひかれていた彼女だったが、まずは何より言っておかねばならないことがあった。


「あ、あの!貴方は…妖、ですよね?」

「うん」

「私は一応…陰陽師でして、一緒にいるところを仲間の方とかに見られても大丈夫ですか…?」

「! …それってキミの方が気にしなきゃいけないことじゃないの?」

「私は全然!そういうことを気にする性格じゃないですし、それに…貴方からは悪いモノを感じないので!」

「そっか。ボクも平気、そういうの気にしない。キミはなんか弱そうだしネ」

「…否定はしません」

「名前…聞いてもいいの?」

「もちろん!木下スズといいます。貴方は?」

「迅猫」

「迅猫かぁ!素敵な名前!」


そう言って満開の笑顔を向けてくるスズに、迅猫はかつての友が重なるのを感じる。

見た目はもちろん、声も匂いも、陰陽師としての強さも何もかも違うのに…


「(なんかさっきから…道万と話してるみたいダ)」


向けられる表情やかけてくれる言葉の端々に、大好きだった彼を感じるのだ。

むしろ纏っている空気は、彼よりもさらに温かい。

スズから発せられるその温度に触れたくて、迅猫はもう少しだけ彼女へ近づいた。


「じ、迅猫?」

「スズのこともっと知りたい。いろいろ教えて?」

「いろいろって言われても、何から話していいか…」

「じゃあ…なんで笛の練習してるの?」

「えっと…私、幼馴染がいるんだけどね、その子がすごく楽器が上手で羨ましいな〜と思って」

「今までは吹いたことなかったんダ」

「うん。作るばっかりで、吹く方は全く」

「"作る"?」

「あ、そっか!…迅猫、さっき私のこと弱そうって言ってたでしょ?」

「御免…怒った?」

「違う違う!実際、私は陰陽師としてすごく弱いの。いや、んー弱いっていうか…そもそも"妖を倒す力"がないんだ」

「えっ?」

「普通の陰陽師には必ずあるその力が生まれつきなくて、代わりに…」


言いながら指をパチンと鳴らしたスズは、出てきたシロツメクサの花冠を迅猫の頭に乗せた。

"こういう戦いとは関係のないものを作り出す力があるの"

そう言って微笑むスズを、迅猫は呆然と見つめていた。



- 31 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ

第2章 目次へ

章選択画面へ

home