"飛"の札を集め、その上に乗って森をもの凄い速さで進む文月。

嵐丸につけた札を辿る、"追"の札が彼を先導していた。


「("追"の札の速度が速い。ずいぶん遠くまで逃げたな)」


"どこぞの獣に喰われていなければ良いが…"

その心配は嵐丸に対してだけではない。大切な幼馴染にも当てはまることだった。


「(スズが昨夜のような無茶をするのは稀だ。滅多なことにはなっていない…それは分かっているが…)」


それでもやはり顔を見るまでは安心できない。

自分の横で安心したように眠っていた彼女を思い出し、文月の手に少しだけ力が入る。

スズが飛ばした折り鶴が彼の肩に止まったのは、まさにそんなタイミングだった。

文月が触れることで鶴は瞬く間に形を変え、1枚の手紙となって彼の手に収まった。


"怪しい妖を発見。嵐丸と関係あるかも。鶴に案内させるから至急来て欲しい"


文月が読み終わると手紙は再び折り鶴の形に変わり、"追"の札と並んで彼を先導し始める。

スズの無事を確信し安堵した文月は、強い眼差しで前方を見据えた。

そうして森を進むこと10分…

不意に折り鶴が動きを止め、その場で消滅した。


「スズ!いるか?」

「えっ、文月!?来るの早くない?」

「連絡が来る前に城を出ていたからな」

「そうだったんだ!…あ、それって"追"の札?」

「あぁ。童に"印"の札を仕込んでおいた」

「さすが!じゃあ私が慌てて追いかけることなかったね」


そう言いながら照れ笑いを見せる幼馴染を、穏やかな表情で見つめる文月。

昔からこの明るい性格と真っ直ぐな行動に、幾度も助けられてきた。

腕っぷしも強くなければ、陰陽道で妖を倒すこともできない。

なのにその強さはどんな者にも引けを取らず、眩い輝きを放っていた。

そんな彼女を護りたいと、幼少の頃から思っていたのに…

あの日、自らの手で傷つけた。

文月の視線は、自然とスズの左肩へと向かう。


「文月?ボーッとしてるけど大丈夫?」

「! …平気だ。それよりさっさと乗れ」

「いいの!?」

「帰れと言っても聞かぬであろう?」

「ありがとう!」


満開の笑顔でお礼を伝えたスズは、手を借りて軽やかに札の上に飛び乗った。

背中に感じる温もりで、文月の表情はまた穏やかな方へ戻るのだった。


------
----
--


「そういえば、見つけた妖とやらはどこだ?」

「それが…一度見失ってから姿を見せなくなっちゃって。でも!見失う前に向かってたのは、今"追"の札が行こうとしてる方向と同じ!」

「ふむ。となると、スズの読み通り童と関係がありそうだな」

「…2体いるんだけどね、そのうちの1体はとんでもなく体が大きいの。あんなのに襲われたら嵐丸は…」

「速度を上げる。掴まっておれ」


風を切って進む"飛"の札。

するとそう時間をかけず、前方に2体の妖の姿が見えてきた。

その更に前には…


「嵐丸…!」

「まだ生きておったか」

「物騒なこと言わないでよ…!」

「札を飛ばす。スズはこのまま乗っていろ」


言うが早いか地上に降り立った文月は、"飛"の札を嵐丸の方へ向かわせた。

そして小柄な妖・旺猟が襲いかかろうとしたところを、間一髪で救出したのだった。


「ほぉ。どんな獣かと思えば猪か。大人しく山に籠もっていれば良いものを」

「お前…」

「命を救ってやるのは二度目だな」

「嵐丸!」

「! スズー!!」


名前を呼ばれると、嵐丸は自分が乗せられていた札からスズの方へと飛び移った。

ギュッと抱きついてくる幼き妖を、スズは優しく受け止めた。

唯一安心できる存在を得て少し落ち着きを取り戻した嵐丸は、文月へと話しかける。


「ど…どうやってここまで…」

「お前に貼っておいた"印"の札を"追"の札に辿らせた。ある程度の距離であれば追跡できる」

「他人の体に勝手なモン貼るなよっ!」

「何を言う。余が来なければ、今頃貴様の首が飛んでいたぞ」

「! 文月、後ろ!!」


2人が乗る札を見上げながら話していた文月。不意にその反対側から旺猟が迫る。

気づいたスズが声を上げるも間に合わず、彼の美しい顔は頸椎を折るほどの力で殴られた。

息を吞むスズと嵐丸だったが、次の瞬間…我らが城主は見事に反撃の拳を振るう。


「面を殴られたのは久しぶりだ」

「文月…良かった…」

「お、おい大丈夫か?」

「案ずるな。奴は殺す」

「そうじゃなくて!」


無事を喜んだのも束の間、話の流れから互いに嵐丸に埋め込まれた神器を狙っていることが判明する。

妖兄弟もまた神器を持っており、更なる力を得るため探し求めているのだ。


「こ、こいつらも神器を持ってるんだ!だからおいらの神器が視えるんだよ!」

「…童、お前も視えるのか?こやつらの神器が」

「そうなの?嵐丸」

「うん…多分視えてる。チビの方は右腕に…デカイのは左腕に着けてる!!」


神器を持つ者は、相手に埋め込まれている神器の気配や場所を把握することができる。

それはつまり、神器を探すために嵐丸が必要な存在になるかもしれないということだ。


「(…なるほど。良いことを聞いた。これは利用できる)」

「(嵐丸がいれば、神器の捜索が少し楽になるかも…!)」


旺猟の話を聞き、スズと文月はパッと目線を合わせる。

根っこにある感情は違えど、2人は同じことを考えていた。

と、文月は静かに辺りを見渡す。

神器の話に集中していたことで触れていなかったが、嵐丸を追って辿り着いたこの村は酷い有り様だった。

畑は荒らされ、家屋は瓦礫の山となり、人々は無残に傷つけられた挙句、命を奪われていた。


「…この村の惨状は貴様らの仕業か?」

「お前ら人間だって獣を狩るだろ?ウチの弟は大喰らいなんだよ」

「そうか…スズ、少しの間童を頼む。絶対に札からは降りるな」

「分かった…!気をつけて」

「あぁ。…では余が貴様らを狩っても問題ないというわけだ」


スズと小声でやり取りをした文月は、そう言いながら腰に差した刀に手をかける。

楽しそうに向かって来た兄弟は、神器の影響か凄まじい力で斬りかかってきた。

特に厄介なのはスズも危惧した通り、弟である伴猟の体格と特大の武器だ。

地面を粉々にする馬鹿力は、札で浮かんでいるスズと嵐丸にまで影響を及ぼすほど。

スズが"飛"の札を操作し回避しているものの、いつ攻撃がくるか分からない危険な状況であった。


「大丈夫?石当たったりしてない?」

「おいらは全然!スズ、ほっぺから血出てる…痛くないか?」

「平気平気!少し掠っただけだから」

「お姉さん、そのガキこっちに渡してよ」

「!」


不意に聞こえた声に振り返れば、飛び上がった旺猟が目の前に姿を現した。

"渡すわけないでしょ!"と嵐丸を強く抱き締めると、スズは後ろ向きで札から飛び降りる。

見事に着地した彼女と入れ替わるように、前に出る1つの影。

振り下ろされた斧を受け止めたのは、伴猟を拘束してから駆けつけた文月であった。


「ありがと、文月…!」

「良い動きだったぞ」

「(ヘェ…)やるな」


想定以上の動きを見せる陰陽師に、旺猟は楽しそうに笑いながら容赦なく追撃する。

しかし胸元から流れ出た血は、奇妙な動きで彼の方へと向かって行った。

旺猟が自分の血に気を取られている間に、文月自身はスズの元へと駆けつける。


「スズ、無事か?」

「うん!嵐丸は気失っちゃったけど」

「…頬を切ってるな」

「かすり傷だから平気。私より文月の方が…!」

「問題ない。すぐ治る」


優しくスズの頬に触れた文月は、そう言って少し笑みを見せる。

だがその時、"縛"の札が破かれ拘束していた伴猟が再び動き出した。

大きく振りかぶった特大金づちをくらえば、いくら文月といえど命の保障はない。

目の前の幼馴染を抱き寄せ、刀を構えようとした刹那…!

彼らの元に頼もしい仲間が到着した。


「力が自慢のようだな。そういうことなら俺が相手になってやる」


伴猟の重い攻撃を受け止め押し返したのは、黒城の怪力担当・白露であった。







- 8 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ

章選択画面へ

home