Chapter4


俺は、矢内には幸せになって欲しい。
俺とじゃなくてもいいから、好きな人と二人――結婚して、そのうち子どもが出来ちゃったりして?
そうしたら俺はもうお邪魔虫だから、あんまり矢内とは会えなくなってしまうだろう。
それでも良かった。だけど、こんな……。
――簡単に想像できてしまう。
旦那さんが家に帰って来たら、矢内が子どもをあやしてて、子どもをあやすそのままの笑顔に、涙をいっぱいためてさ、
「どうしよう、殺したい」
……ドン引きだろうな、そりゃ。どんなに出来た男でも逃げ出すだろう。どんなに妻や子どもを愛していたとしても、自分の命はそれ以上に可愛いもんだ。
キスの攻守は、いつの間にか逆転していた。
俺が目を閉じて少し深めに矢内を求めると、腕の中の矢内の体温が簡単に上がる。俺にすっかり身体を委ねてきた矢内だが、その手は控えめに自分のシャツの前を漁ってボタンを外そうといる。
こっそりやったら、ばれないだろうって思ってる? でも、そんなにごそごそやられたら、どんなにキスに夢中でも気付くって。
気付かない振りを、してやるのが礼儀ってものかも知れないけど――
俺は我慢ができなくなりそうで、ついでに矢内がどんな面でそんなことしてんのか拝んでやりたくって、両肩を掴んで矢内をべりと引き剥がした。
これ全部誘い受けの激しい矢内の冗談で。
「バレたか、やっぱり恐山は一筋縄じゃいかない」
なんて舌を出してくれたりしないだろうか。
だけど目を開けたときそこにいたのは、
「――すまない、恐山」
震える声で俺に謝って、顔を覆って泣き崩れる矢内で。



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