chapter5


「――じゃ、そろそろ俺は帰るけど、玲衣はまだいるんだろ?」
あっさりとベッドから降りて、軽く体を伸ばす恐山に声をかけられて、はっと目が覚めたようになる。その目はもう、怒っていなかった。恐山がわたしに気を遣っていると分かった。
わたしは先生を見た。先生は、ん? とわたしを見る。

心がすぅと定まった。

「――……今日は、もう帰ります。先生、これね、とっても面白いから今書いてるのの、参考になるかと思います」
わたしは今日一番の笑顔で、どんどんと、ベッドに備え付けてあるテーブルに分厚い本を三冊積み重ねた。
「ハ、ハードルを上げてくれるね……」
微苦笑する先生にわたしは笑顔で、
「じゃあ、また来ます谷川先生っ」
「お、おいっ」
恐山の腕を引っ張って退出する。

扉が閉まり、

手を振って見送っていた谷川は扉を見ながら頬を掻いた。
「……ファン、連れてかれちゃったかなぁ」
静かに呟いて、微かに笑った。



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