chapter3


「手身近に話そうか」
恐山君がそれ以上、話したがらないからわたしから口を割った。
話したくても話せないだろう。
彼は、自分のことでも人に話したがらないのに、大事な人のことをぺらぺらわたしに吹聴したりはすまい。
「大切なことは三つ」
恐山君は口を挟まない。町までは、長いようで短い。恐山君はそれでも何か得たくて、わたしに会いに来たのだと思うから。
「まず、一点」
「はい」
「絶対に自殺はしないって、指切りさせること」
「……はい? 指切り?」
「簡単でしょう? でも、その約束があれば相手に一瞬でも、自殺を思いとどませることが出来る。その人から電話、かかってきたら無碍にしないこと。そういう時に、誰かに電話をすることがあるから。混乱してるようだったら、とりあえず三十分は、話に付き合ってあげる。死にたい死にたいって一番激しいときは、発作のようなもので、それ以上長くは保たないんだ」
「……」
「次行くよ……二つ目。大切な人だって言ってたけど、君はその人の側以外にもあと二カ所、自分が自分でいられる場所をもつこと。出来れば、相手にも君以外に二カ所、そんな場所があるといいね。一本の棒は立たないでしょ? 二本でも共倒れだ。三本あってようやく安定する……この比喩は分かる?」
「……はい」
よし、冷静だ。
それが少し気になるところでもあるけれど。
「最後。君は自分を犠牲にしないこと」
ここまで大人しく聞いていた恐山君は奇妙な間をおいて、ふっと噴き出した。

「俺がそんなタイプに見えますか?」
「うん、見える」

即答すると、恐山君はぱちぱちと瞬きをし、その後憮然とした。その態度が、わたしにはやっぱり幼く見えてしまう。
「――君は思い詰めたら何をするか分からないでしょ?」
――“大切な人”っていうのはやっぱり、恐山君の恋人なんだろうか。

老若男女問わず、恋をしている人はかわいい、とわたしは最近常々思う。
やっぱりそれはとても、人間らしいことだと思うから。



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