夜に塗りつぶされていたカイロの空に朝日が昇る。夜明けを知らせる光とともにDIOは完全に消滅した。長きに渡る因縁の終止符を見届けたのはジョセフと承太郎の二人だけだ。他の三人と一匹はすでにSPW財団の手によって病院に収容され、手当を受けている。退院するまでしばらく時間がかかることだろう。
花京院が病院のベッドで目覚めたのはDIOが消滅した日の夕方だった。最初に脳裏をよぎったのは千里の無事だったが、すぐに彼女はもういないのだと思い出す。骨まで焼き尽くされた千里は遺品らしい遺品をなにも残していなかったため、彼女の生きた証となるものは花京院の腹に残る銃創くらいのものだ。その傷を作った銃弾も当然のように残ってはいない。
花京院は千里の敗北する姿を想像するどころか考えたことすらなかった。承太郎に負けず劣らずの精神の強さ、冷静沈着を通り越して冷徹で常に的確に行動する無駄のなさ。一瞬の隙もなく誰よりも戦いに身を投じていた一人の少女を彼は過大評価しすぎていたのかもしれない。彼女への憧れは尊敬を通り越して崇拝に近かったのかもしれない。ゆえに花京院は千里が負けるなどと考えたことがなかった。それほどまでに彼女は強かった。人として揺るぎないほどに彼女は常にまっすぐであった。
数ヶ月前DIOを前にして自身の弱さを痛感した花京院は承太郎と千里に憧れていた。同性の承太郎に対しては信頼と尊敬を抱いていたが、異性の千里に対しては性別の違いからかどうしても女の子なのだからと別の感情がつきまとう。傷つくことに躊躇いがなく、また仲間を見捨てることにも躊躇いがない。感情とともに人として大切ななにかを失っているように見えた千里が気になって仕方がなかった。しかし花京院は千里について知っていることはほとんどないに等しい。年齢も誕生日も趣味も出身も国籍もなにもかもを花京院は知らない。なにを考えているのかすら結局理解することはできなかった。
守ると宣言したはずなのに守れなかった。助けるどころか殺してしまった。タロットで暗示された運命から救い出せなかったのだ。それは一生花京院につきまとうものだ。最後の最後まで花京院は千里に追いつけなかった。それどころか置いて行かれてしまった。結局花京院は千里の隣に立つことは叶わなかったのである。