見えない気持ち




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──爽ちゃんと結婚して同棲を始めてから数ヶ月が経った。

もちろん爽ちゃんとの生活にも慣れて順調でなんの問題もなく過ごしていた──そんなある日のことだった。


いつものように爽ちゃんと夕食を共にしていた時、爽ちゃんが唐突に言葉を紡いだ。


「美亜、話があるんだけど…。」
「え?なに?」


爽ちゃんの表情がいつになく真剣だったから私も真剣な面持ちで爽ちゃんの話とやらに耳を傾けた。


「……急で悪いんだけどさ。俺、今週の土曜日から1週間大阪に出張になったんだよ。」
「へ?」


それはあまりにも唐突な話で情けなくも私の口から出た言葉はすっ頓狂とんきょうな声だった。


「……え、出張?1週間?」


それから頭の中で思考しながら爽ちゃんの言葉を復唱するように呟いた。


「そう。大阪に1週間の出張。」
「そ、そんな急に……。」



爽ちゃんと同居を始めて爽ちゃんが出張で数日留守にするのは初めてのことで私は動揺していた。


そりゃあ私の父親も出張でよく地方には行っていたけれど、父親の時とは訳が違う。



「美亜、1週間…。1人になるけど、大丈夫か?」



爽ちゃんがそんな風に心配してくれるのは無理もない。

この部屋には普段爽ちゃんと私しかいないのだから爽ちゃんが出張で暫く留守となると私1人になってしまうからだ。

だけど、出張で仕事ならば我儘わがままは言えない。



「大丈夫だよ!だから爽ちゃんお仕事頑張ってきて!」


本当は寂しい。

たとえ1週間だろうと爽ちゃんがいないのは寂しい。

けれど、私は爽ちゃんに心配かけたくなくて…
"大丈夫" という言葉でそう強がるしかなかったんだ。


「…そう。大丈夫ならいいんだけど……もし何かあったらすぐに電話しろよ。」
「うん…。」



"何かあったら"──その "何か" の前に寂しくて電話しちゃいそうで……いまだに心配してくれている爽ちゃんの言葉に私は頷くことしかできなかった。


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