なみだがとまらない
庄「お疲れ様でした」
『はい、お疲れ様。三郎、行くぞ』
三郎「あ、嗚呼・・おい、都佑お前」
うん?なんだい?
そう振り返った都佑はいつも通りの都佑で
少し寂しい気持ちもしたが、気にせずに三郎は
何でもないと言葉を心の中に留めておく事にした
委員会が終わった後、直ぐに都佑は変装を戻した
どうやら裏の顔は幾つかあるらしく、
それも何処かで見た事のあるような顔だった
三郎は思い切って変装を教えてあげようと
言うと別にいいよと否定された
本当は拒否するつもりはなかったが、
どうせ自分の手のうちも晒さないといけなくなる
それはこの学園に必要ないからね
そう言って水を飲んだ彼を思い出した
三郎「(私があんな事を言うだなんて、おかしいものだ
岡本都佑、やはり気にかけておいて正解だった人物だった)」
元々気になってはいたのだ
しかし都佑は自然と大人数の中に自身を溶け込まして
さも居ないかのように振る舞う
そして一人余ると先生に言って時々先生とやるか
もしくは何処かに走って行くのを見た事が何度かある
その度に何があるのか聞くと「なんでもないよ関係ない話しじゃないか」
と言われて喧嘩を買った同級生を宥めたりするのも大変だった
しかし今回の事を聞いてすぐに都佑が如何に
計画的に全員を巻き込んで忍らしい忍をしていたのかが分かる
三郎「(変装だとは知っていたが、まさか
マスクがあそこまで種類があるとは・・・)」
手の内を晒さないと言ったは言ったが
マスクを晒さないとは言っていないと言って
三郎のマスクと都佑が使っているマスクを見比べていたのだ
三郎が使っているものと殆ど変わりない素材に
三郎は勿論驚いたし都佑も驚いた
まぁその後話した事もうやむやにされてしまって
どう説明をしていいのか分からないが
とにかく彼は本当に何を考えているのかが分からない
この日を境に都佑は一枚皮がむけたかのように
私達と話をするようになった
雷蔵とは
『オススメの本って何かないかな?』
と聞かれて読んだことがある本に当たれば
ちょっと楽しそうに話し出したそうだし
八左ヱ門からは
どうやら無類の動物好きらしく
毒があっても本人は
『毒は自分を守る盾みたいな役割だろう?
それってなんか、かっこいいっていうか
良い事じゃないのかな。
怖いって人間が想っているだけだろう?』
って言ったらしく以来三日に一回は委員会に
遊びに行かせてもらっているらしい
兵助との仲も良く
豆腐好きは悲しくも冷やっこや豆腐の素材を
生かしたものは苦手という事が分かった時は
兵助が倒れてしまったが、それでも
都佑は『おとうふ、好きだからな!?』
と言って嫌な豆腐も我慢して食べたそうだ。
因みに週に一度か二週間に一回のペースで
火薬委員会の豆腐パーティーに参加するようだ
本人曰く『晩御飯食わなくてすむ!』
だそうだ。いや食えよ。兵助の豆腐美味しいけどさ。
ときたら勘右衛門との仲は悪いと思うだろう?
処がどっこい。都佑から自然に甘味の話をするらしいのだ。
勘右衛門曰く都佑は煎餅好きでおもちが嫌いだそうだ。
かろうじでみたらし団子は食えるらしいが腹持ちがいいので
月に一度三本食べたら暫く食わなくても味を思い出して
直ぐに飽きてしまうらしい。
そんな感じで私とも仲が良くなった
勿論、昔から仲良くしていた秋月とも仲がいい
しかし私達は知らなかったのだ
本当に私達に気を許したのはあくまでも
そう、あくまでもたった一部だったと
その日は何時もと変わらない晴れ晴れとした天気だった
私達は何時もの様に食事を共にし
実技でい組とろ組だけ組別で対決するものだった
は組が実習で三日も出ており次は私達だった
それに都佑は二日前からソワソワとしており
気が散って仕方がないようだ
三郎「都佑、幾ら同室が気になるからと言って
そこまでソワソワしていたら勘右衛門辺りに
背後取られるぞ?」
『え?あ、ああ!すまん!その可能性
忘れてた!ありがとうな、三郎』
そう言って彼は笑顔で手を上げる
それに安堵していた
今回は2人のペアを組んだもので
相手が降参と言うまで薄暗い森の中での
戦闘のものだった
私達ろ組は勿論先生方の
何時ものペアから外れて別ペアを作れ
の通りに作る
竹谷&不破チーム
鉢屋&岡本チーム
1人病気で欠席をしていた為
丁度良く分かれてしまって何だか
申し訳ない気分だと都佑は言っていたが
正直これで良かったと思った
『三郎、改めて宜しくな!』
三郎「嗚呼、こちらこそ。」
八左「お?あの三郎が足を引っ張るなよとか言わない!?」
『あ、そういや何でだ?私言われ慣れているから言ってもいいのに』
三郎「んん、なんで?と言われても・・・
都佑は素直に感情をぶつけてきているし
それに突き放すと何処か別の遠い処に
逃げる気がして、な」
怖いのだ
今迄ずっと『あっそ』と言って来た人間が
日を超えてすぐにあっという間に仲良くなった事に
きっとこの胸騒ぎは気のせいだと
言いたくて言いたくて
『そんな事ないよ!?私逃げないよー』
そうケラケラと笑った後雷蔵に対して
迷うなよ?迷ったら私・・も迷うからな!?
と言い出した時には笑って突っ込んだ
この日常が好きだった
森の中に入るとそこは私と都佑以外全てが敵
そう考えると怖いが都佑は大丈夫と小声で言って来た
『大丈夫大丈夫、怖くないよ。
だから大丈夫、1人じゃない。
だから落ち着いて、目を耳を澄ませて』
そう深呼吸を繰り返す都佑に誰に言い聞かせているのだろうかと
思っていた矢先、い組の人間が走って来た
直ぐに都佑を庇い対立するが都佑はと言うと
『私は女じゃねーんだから立つぞ。
あ、待って逆にこれ私が後ろ
任されたんじゃね?私行く。後ろ見る。』
とか言い出して後ろを見て飛び出していきやがった
こら!私の話を聞かんか!!
本当に人の話を聞かん奴だな!?おい!!
秋月お前どんな教育してんだよ!
そう考えて秋月「ごめん都佑は理不尽な野生の狼さんです」
と言ったのを思い出してふざけんなと心の中で殴っておいた
「はっ!これならどうだ!」
三郎「・・おい、一体どういうことだ?」
三郎と都佑の前に円の様に囲むい組とろ組
どうやら他の人間も居たらしく、見た処
雷蔵達は居ない
「いつもいつもうっとおしいんだよお前らさぁ」
『あ?どゆこと?何の話?私しらなーい』
そう冷静に言うも背中を合わせると
カタカタと震えていた
それに私は腹の中が震えるのを感じた
なんだ?
このモヤモヤした
沸々と湧き上がる感情は。
「変装名人さんは何をしても許されるんじゃね?
それに加えて最近嬉しそうに随分と仲良くしてんじゃん
八方美人なんだろう?それもさぁ、岡本」
「それにしてもクソだよな、こんな冷たい奴と組むだなんて」
三郎「奴らの声を聞くな都佑!あいつらは・・・」
『・・あ?嗚呼、そうだな・・すまん』
一瞬かなり冷たい声が漏れたがすぐに
元の都佑の声が聞こえるあぶねぇなおい
切りつける苦無を片手に辺りを見渡して
直ぐに走り出した
私はまず苦無を手と足で器用に使い
2人同時に振り払い
そのまま気絶させる勢いで更に
2人を巻き込み四人を相手にしていた
そのせいだろうか
真横から声が聞こえた
『三郎っ!右っ!!』
振り返り左に避けようとすると
しゅっと血が舞った
パタタと音を立てたソレは
かすったかと思っていたら
攻撃してきた本人も「かすっただけか」
と言っていたので本当だろう
分かっていたつもりだった
私が声を出しさえすれば都佑は笑ってくれると
『なぁ・・今、何をした?』
笑いながら引き汗をかき腰を落としている都佑に
引き下がる奴ら
『こんな苛めみたいな事してさ
私はいいさ、まだ私が苛めを受けるのはいい。
・・おい貴様、今何をした?』
三郎「都佑!集中しろ!」
『分かってる、知ってる。これさ、
"アレ"を言わせなければいいんだろう?』
アレ、つまり降参の意味をいち早く理解したのは
三郎だけでは無かった
そう言って都佑は眼を開けてすぐに私に切りつけた
人間を足で吹っ飛ばした後勢いで三人ほど
円をかくように胸を蹴り苦無でーーー
木下「岡本!落ち着け!っ!?」
『・・敵、さぶろ、以外、敵』
ゾクりとした
これが殺す勢いの人の行動かと
一部の者は降参だと言って何処かに逃げて行った
それを追うとすると木下先生が前に行く
都佑も意識はあるらしく、目の前に来られると
また違う方向に走りだそうとする
木下「岡本、落ち着け!
お前が見たのは鉢屋のかすり傷の血だ!
殺されようとしていない!!」
『違う、殺す勢いだった、私、聞いた
感じた、駄目、だめだめだめ』
木下「大丈夫だ!そんな時があれば
私やお前の先生が止めに来る。
岡本、考えている事全て言っておけ
今なら此処には私と鉢屋とお前しかいない」
そう軽く肩に手を置いた後胸元に都佑を押し付ける
木下先生にもがく都佑
しかし次第に泣きそうな声で嗚呼、と言い出して
ぼそりと言った
怖かったと
木下「嗚呼、怖かったな」
『うん、こわかった、いやだった、
さぶろ、傷つかれたかとおもった
だから、ねぇ怒るの?怒られるの?
やだ、やだよ』
木下「大丈夫だ、怒りはしない。
しかしお前がしたことはいけないことだ。わかるな?」
『うん、ごめんなさい、悪い子。
でも三郎、悪い事言われてた、
頭、キタ、怖かった』
木下「嗚呼・・鉢屋お前からも言ってやれ
そんな事で暴れるなとな」
そう三郎の方に投げ捨てる木下先生に
三郎は「大丈夫だ」と笑ってやると
泣きそうな顔で『うん』と言ってくれた
酷い程に人想いなのだと知った
こいつは友達や好いている人が傷ついた時
一体どんな変化を目の前で見せてしまうのだろうかと
それと同時に木下先生に対して
かなり安堵した声をだしていた
それに感じたのだ
嗚呼、まだ"トモダチ"という範囲内の人なのだと
それに何故かチクリと痛んだ
『あの・・その、こ、怖かっただろう?
私、三郎の前で・・あんな』
三郎「怖い?そんな訳あるか。私だぞ?
この鉢屋三郎に怖い物などあるか!」
『そ、そうか・・・よかった。』
三郎「第一私はあんな事位で怒りはしないし
都佑もあのまま脅すだけで良かったものの・・」
『それは出来ないよ!!』
そう大きな声を出して都佑は声に驚き
泣きそうな顔をする
何だか今日はいつも以上に泣きそうな顔をするな
三郎「・・私が傷ついたら、
都佑はこの学園の人全てを敵にするのか?」
『うん』
三郎「即答かよ・・・八左や、勘右衛門達だとしても?」
『そ、それは・・・』
三郎「あのな、都佑。人間はそんなにやわじゃない。
私だって傷つくかも知れないけど癒してくれる人がいる。
勿論お前だってフォローしてくれるんだろう?」
『そりゃあ君が望めば私は!!』
嗚呼、こいつが"ち組"と言っていた意味が分かった気がする
こいつは、岡本都佑は一つ決めたことには忠実になる
それは忍びにとって最高に良い事だ
しかし、それは徐々に人間というものから遠ざかってしまう
その為の危険分子を取り除く処置が"ち組"なのだろう
現に彼は三郎を必死に"友達を守る"
事に必死になって前が見えていないからだ
三郎「(都佑、そんな事を何時までも続けているとお前本当に死ぬぞ)」
だからなのだろうか?
都佑が最近私達と話しているのは
最近特に嬉しそうに笑い出したのは
木下先生の声を聞いてすぐに場所を変える
木下先生は後で私に職員室に来いと言われた
はて、何を聴かせてくれるのだろうか?
都佑の顔色は一段と暗かったが、
何処か泣きそうな顔でずっと私に笑っていた
無惨でも良かった
(そんな顔をする位ならいっそ無惨に突き放してほしかった)
(そんな事出来ないよ。私は死んでも君らを守ってあげる)
(私はそんな事望まないのに、お前はそう言って笑うんだろうな)
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