遠のく背中



木下「岡本」

『はい、何でしょうか木下先生』

木下先生はいつもの様に私を撫でてくれた
先生方の一部は私が女である事を見抜いている
勿論変装や性格は完璧にしているし
先生お墨付きなのだが、どうしても
こうやって撫でられると顔がへにゃりと歪んでしまう


それにくすりと一瞬笑う木下先生
私は目がキラキラと輝いてしまう
だって余りにも嬉しかったから
そう思っていると「誰にもそんな顔みせるなよ」
と言って更に力を入れて来る

ちょっと乱暴で痛いけど愛情だと思うと
嬉しくて仕方がなかった
ちゃんと顔戻したけどね!



実技の授業で組手が行われた
そこでも私はサラシをして一回り大きな男性に向かって走る
私は女の子だ。

勿論化粧もそれなりにしたいし
可愛いものには目が無くて飛びつきに行きたい程


でも私は男の子だ

身体は女でも心だけでも鬼にしなくてはいけない時が来る



『(違う、心は鬼以上にどす黒いものになっているんだ)』


あれから三日が立ってしまった
情報がすぐに回る、先輩だけでなく
五年や四年の鍛錬の声が聞こえなくなった


それだけではない
この授業もかなり力をセーブして動いている
目の前に居る竹谷八左ヱ門の行動が直ぐに手に取るように分かってしまう


『(顔に出過ぎだっつーの
ふざけていないのは分かるけどさ
恋路に溺れる人間は何時見ても
うっとおしい事この上ないな)』


そう機嫌が右肩下がりになっている今の心境を
八左ヱ門に気を取られない様にちゃんと気持ちまで
セーブさせている私って本当に偉いと思う。
優しい都佑ちゃんだね本当にありがとうございます。

それにしても何時から私はこんなにも
他人に対して献身的な行動を自然と取るような人間になったのだろうか?


『(いや?違う、なんだろう何かが違う)』


ズンとまだ来る攻撃を受け止めて勘に身体を任せて
チクリと胸の奥の奥が痛んだ痛みを探し始めるも
結局痛みは分からず木下先生の止めの一声で
今日の授業は終わったんだと思いながら

今迄好きだった授業が嫌になりだした








きり丸「あ、都佑先輩!」

『よっすきり丸元気にしてっかー?』

今日は図書委員会にやってきた
相変わらず雷蔵と長次は居ないようだ
全く天女フラグは本当に此処まで
夢小説と同じ様な事をしてくれて

もう本当にありがとうございます。
来世で待ってろ召されてしまえこんちくしょう


はい!と声を上げたきり丸を見ると
背中の後ろと言うか、眼の色が一瞬滲んだのを逃がさない
寂しいのだ。きり丸は孤児の子供だ。
まだ10の子が両親の愛情すら良く分からず
右を左を目上の方や同室の子でさえも
欲をきちんと吐き出す事はしない


その姿を思うと頭の中でジジジとノイズ音が鳴る
何だろう?病気でもあるまいし。

まあ寝たら何とかなるかと思いながら私は
きり丸を軽く抱きしめ図書の仕事をこなした後
そのまま生物委員会の方に行ってみる











『・・孫平』

孫平「・・岡本先輩」

『都佑でいいよ。先輩付けてほしいけど』

分かりましたと頷くのを見て私はそっと生物委員会の輪の中に入った

竹谷が来なくなったのも孫平は大体知っている
天女様と言う声がキラキラしているのに
何も言えなくなり心を無理矢理閉じ込めて
自分の言いたい事を押し殺し
そのまま無かった事にしようとする


夕闇がとても綺麗だなぁと思っていると
孫平が・・トンボはいいですよね。と言った


孫平「鳥達は自由でいいですよね
ナニカに囚われる事も何かを必要としようとしない様で」

『そうだねぇ』


何と言う事を思わせているのだろうか?
八左ヱ門、今日組手したが今迄で一番楽な授業だったぞ
私の悩みも孫の想いも何も分からなくなり
そのまま恋路に溺れるとは腹が立つがすぐに熱が冷める


『鳥さんやトンボさんは良いよね。
でも人間にもいい処も悪い処もある。
孫平』

「分かっています・・わかって、いるんですが」

『うん、分かってしまうのは早過ぎなんだけど
こう言う状況にした奴らが悪いと今は思っていればいいさ。
罪悪感に絡まれながらさ、委員長代理の気分を少しだけ
味わってしまえばいいさ。』

でも今は甘えていいよ。



そう言うと孫平が腹の中にそっと入り込み
グズグズと言い出したのを聞いて溜息を吐き
背中と頭をさすりながら「大丈夫」と繰り返し
ゆっくりと言い聞かせる様に言ってやる




義務がなくなる事が怖かった




委員会をしなくてはいけない

後輩をみなくてはならない

義務になっていた事が無くなっていく今が

後輩たちは明日の怖さを思い知らされ怖くて前が見えないんだろう



そんな時に私は要る

優しくその時だけさすって前に押し出してあげるのだ


すると次の日にはけろりとして一皮むけた様な顔をしているのを見て
私は笑って前を見ないといけないなぁと思いかえすのだ
































































義務がなくなる事が怖かった


前ページ - return - 次ページ













/utakata3/novel/28/?index=1泡沫の白昼夢