手の温かさのこと




壁を剥がしてやろうか


忍術学園が天女の空気に囚われて早二週間が経った
然し相変わらず委員会は良い感じに活動はされている

活動だけは




『(用具、作法、生物辺りがざわざわし始めるだろうな
私が食満、立花先輩と八左のそっくりになれないことは
ないのだがそれは只傷を抉るだけにしかならない。)』


確かに生きている"私"に答えるかの様に私は
じっと、じっと息を潜めて生きていたんだが


葵「都佑、」

『ーーなんだあおちゃんか』

葵「上級生が少なすぎる今ピリピリしないと
いけないのは分かるけど殺気は振りまくなと
あれ程言っておいただろう?」

『あはは、すまないなぁー。
最近任務も任されないからどうも
身体が鈍って仕方がない。』

死合いなんてされないし
正直血生臭い任務はまだおった事が無い
学園長先生も分かっておられるのだろう


私が忍として入っていない事などーーー



葵「・・無理してるだろ」

『してないさ』

葵「してる」

『してない』

葵「してない」

『してる・・・あ』


にやりと笑った葵につられて何故か自分も笑ってしまう
嗚呼、はめられた・・・


葵「部屋や誰も今は来ない場所に今にでも消えそうな
火を置いてゆっくりと確実に火の勢いを増す様な事を
する様な奴が急な判断には弱いのは分かっている」

『良く分からない説明どうもありがとう』


分からないような事を言わないでほしい
火は未だに燃えている
そう、心の中にずっと昔からある純粋な火は
未だ消す事さえも許されていない

ずっと見ていなかっただけで
確かに燃えていた火を見た私は
きっと変わってしまったのだろう


葵が妙なものをみたと言う様な顔をしている


葵「最近色んな情報を手にしたから聞きに来たんだが
お前、最近ぼーっとしているだろ」

『・・・それは流石に解っている』

葵「それだから最近任務やあぶなっかしい場所に
行かせない様にされているんだよ。
ろ組でも分担されているだろう?あの鉢屋が居ないから」

居るには居るんだが、心ここにあらずという感じだ
最近は私の矢羽音を聞いて顔がコロコロと変わっているが
あんなに変わる奴ではなかった。


葵「後まだあるぞ。お前最近食べたものを吐いているだろ。
食事を終えた者が偶然お前が走った後を追いかけて見ると
食べたものを全て吐いた後泣いているのを見たと聞いた」


うわぁ・・・見られたくない処目撃されている
その昔、ストレスで死にそうになった時に
急に来る吐き気で全て吐いた後生理的な涙の後に
嫌になる現実を見ない様に涙を流していたのは
確かに本当の事だ


然しそんな事葵には関係ない
これは私の問題だ
この壁は、壊させない

壊れた時はきっと


葵「都佑」

『・・・そんなのは知らない』

私は見てもやってもいない

葵「都佑、現実を見ろ。
あいつらは忍でもなんでもない
只好きになって前が見えず
溺れた只の馬鹿共なんだ」

違う、きっと任務か何かなんだ。
私は信じてる。だってあんなにも
輝いて笑っていた奴らが直ぐにそうなる訳がない。

葵「都佑、現実を見ないで生きるのが
どれ程辛いのか分かっているだろう?
いっそ見て忘れた方が楽になる。
お前は何をしているんだ」

止めてくれ頼む
現実を見たらロクな事なんてない
頼むこれ以上負荷をかけないでおくれ
きっとこれ以上かかったら私は私は

『忘れてしまえばどれ程楽だろうか』

葵「都佑・・」

忘れて何もかも捨てて落ちてしまえば
どれ程楽になるのだろうか
分かるか、分かる訳ないないのだ

お前も、天女も、三郎達も
あの人らだって
だぁれも私の全てを許して
愛してくれた人は1人もいない!

この深過ぎる純粋すら分からなくなった
想いなど鎖でしかない!
忘れてしまえばどれ程楽になるだろうか!
教えておくれ、顔ももう変わったのだ
もう仮面になり人形に戻るのだ

あの涙すらも分からなくなった
白と黒の世界の人間に
私はまたならなければ生きていけないのだ


『・・お前だって分かってくれないさ』

葵「都佑!そんな事ない!私だっ、てーーー」

ガッと都佑が葵の胸ぐらを鷲掴み
じゃあ!と泣きそうな声で言いだした

『じゃあお前は分かるのか?
変わらなかった日々が変わり捨てられていく人の気持ちが!
確かに生きていた火が変わり本来の重い火を見た時の嘆きが!
どれ程想い恋焦がれても手を伸ばしても届かない
只笑って夢だと夢を現実と思わせてまで
叶わない願いの夢を、のぞ、み、ねがっ』

ぽろぽろと泣きだした都佑をがっしり抱きしめ
葵は「ごめん」と呟いた


葵「分からない。ごめんね。」

『ーーっ、ほらみろ!ほら、お前だってお前も』

でも、と都佑の口を塞ぎ声を出す


葵「私は日々は変わっていくものだと知っている。
火は変わったんじゃあなく、お前が本来の自分を
見つめだしたという事も知っているし

苦しいよな、叶わないのに夢にまでも出して
自分を苦しめて、叶って欲しいさ
でも叶わないで欲しいとも思う。
だって叶ったらお前じゃなくなる気がするんだ。

なぁ、都佑。もうおしまいにしようよ
もう十分頑張ったじゃないか。」

えぐえぐと泣きだす都佑を優しく
赤子をあやす様に葵はポンポンと背中を叩いた
そのあやし方を確かに都佑は知っていた

嗚呼、懐かしい気持ちに落ちそうだ
落ちてもいいと葵は言ってくれた


葵「お前が頑張り屋な事や人一倍人が好きな事だって
私は知っているしもっと他の事も知りたい。
お前はどうして其処までして馬鹿を守りたくなるんだ
それはお前のエゴか?それとも」

生きていた頃の人を救う為か?


その言葉は何故か心に刺さり
生きていたと言う言葉にバッと顔を上げると
「変な顔」とくしゃりと笑った葵に
都佑は眉を寄せて口をパクパクとした


葵「嗚呼、初めまして。"私"の名前は秋月葵だよ。
声は昔の真似をしているけど、初めてでしょう?」

『あっ、う、っえ?』

葵「八雲さんもこの世界の人間になってしまったらしいし
単刀直入に言おう、都佑。お前"前世"の記憶が戻ったんだな?」


目の前が真っ白になった
何と言った?
葵は前世と言った

あの確かに過ごしやすかった
温かく冷たい世界の人間だった人間が
今目の前でギラギラと目を光らせて
忍になろうとしている


葵「おっと嘘は通じないからね。
私の前世は女だったし考える事は大体わかる。
死んだときは確かまだ40手前だったよ
交通事故だった。今はれっきとした
男として生まれ変わったさ。君は?」

『・・いいの?怖いとか、そんな』

葵「怖い?昔となるあの時代がかい?
それとも、"今"の自分が消えて昔に
囚われて全てを失う事かい?」

その両方だと言いたいが
唸りながら俯く都佑に葵は
そうか。と言ってくれた


葵「別にお前がどんな人間だったのかは
深くは聞かないさ。君がどんな人間で
どうしてあの変装名人の鉢屋三郎を
見て見ぬふりをして自分も変装をして
顔と性格すらも分からなくしているのかも」


こいつは殆ど見抜いていると
私は瞬時に思った
五年生から葵と同室になったのだが
余りにも早い決断に昔から
監視させられていたのだろうかと
少し変な動きをしてなかったのかと
色々と考えてしまうが直ぐに考えるのを止めた




『あおちゃん』

葵「都佑、君が大事なんだ。
愛情の好き、に近いかもしれない。
でも君は別の人を追っている事が分かる。
手に取るように君が誰かを亡き人であっても
誰か知らない人が君を愛しているのも
何となく分かる。」


嗚呼、分かってくれる
この人なら



私はすっと手を取りそのまま葵の首元に手を組みそのまま雑魚寝をする事にした







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