鳥になる未来の予定



そこで私はふと月を見た
真っ暗闇の中雲に隠れながらも雨が上がる

霧雨の夜の満月になりかけているか分からなかった
その情景に頭を打たれて記憶が飛んでしまうかもしれないと
思うかもと言う位の強さに眩暈がした





誰も見てはいないのにね



単刀直入に言おう

記憶が戻った



どの記憶かと言われると主には幼少期から青年期の記憶だ
その記憶の中にいた私は余りにも
見るに耐えない顔をして突っ立っていた





両親は離婚した



私は見放されたのだ
そう

今日みたいな日の霧雨が降る中

母は「ごめんね」を繰り返し
私にそう言って出て行った


その当時の私は
失望感と言うのだろうか
その日から私の心にぽっかりとした
穴が空いたまま人生を終えたのだ

幼い頃から私は父が好きだった。
妄想の中で父を取り合う私と母が
対抗している所に愛犬が地面をバタバタと
音を立てる光景を想い描く自分を思い出した

確かに好きだった
父も母も一等可愛がる耳の大きなパピヨンも
白黒で凛々しいあの姿に救われたのだ
捨てられた後何度も傍に来て座って
鼻をふんすか鳴らしていた

まるで「何時もの元気は何処に行ったんだ。
メソメソしていたら楽しい事も何処かに
行ってしまうぞ?だから早く俺と遊べ」
と言うかの様に愛犬は私がギュッと
抱きしめてもうんともすんとも言わなかった






『嗚呼、僕は・・・"私"は』


一人幼いまだ11になろうとする夏の夜
暗闇に立ち尽くす私は、
両親の手を取りたいのに
彼らは近くにいて遠くにいる感覚に
眉を八の字に下げて笑って涙を流していた


嗚呼、悪い子で居てしまったから
我儘を言い過ぎたから見放されてしまったではないか

と、その日から私は自分に更に
質の良い仮面を作り笑う様になった
悪い我儘の感情を押し殺して
気が付けば欲も無くなって
私の中に居るものは只彼ら(両親)の愛情だけだった




鉢屋達と居る時とは全く違う満たされる
変な感覚に酔いしれてしまう

甘い様でとても哀しくなるこの感情
頭の中がいっぱいになって少しチカチカ
した中に恋焦がれるような、
でも恋愛の苦しみとは違う


そう、例えて言うなら
恋愛は林檎でこの想いは蜜柑の様だ。

甘いが少し酸っぱい後何度も何度でも
繰り返し想い出され壊れた人形の様に
記憶が繰り返されるこれはまるで
鎖の様にも感じてしまう。

嗚呼でも例え名前を思い出しても
貴方達は此処には来てくれないし
来たところでその眼を見て私は
その場から逃げ出してしまうのだろう



『何て愚かな事をしていたのだ・・!
嗚呼でも普通の事なのだろうなぁ』

私は膝を立てて空を見上げる
一筋の涙が溢れて畳の上に零れ落ちる




だって、捨てられた私は
貴方達の背中を追うことしか
許されていないのだから

身体を丸める様に畳んで
胸を鷲掴み深く呼吸を繰り返した
目を閉じ各部位を手で触り再確認する


記憶は残酷だ
目や鼻、耳を失うよりも狡くて酷い


記憶が失うならまだしも
記憶が取り戻されたのだ
奇しくも、私には
その記憶が鎖にしか感じなかった

ジャラジャラと鎖が意志を持ったかの様に
私の足に纏わりついたと思いきや
そのまま手首や喉廻りにも鎖が巻かれていく



思い出した私にはこの罪を償えるほどの時間は果たしてあるのだろうか?

否、きっとしなくてはならないのだろう


そう確信した私はすっと眼を少女の方に向ける
少女は微笑んでいたのだ
嬉しそうに、そう


今迄見た事もない位
嬉しそうに笑っていた


ここまで滑稽な話が他にあるのだろうか?
いいや、無い。
少なくとも私が生きている中では
1度もこの感情に勝ったものは無かった

現に鉢屋達と居るより断然こちらを
想い焦がれている方がとても楽しい

(いや、違う。私は狂っていたのか)

忍者の3病に恐れ、侮り、考え過ぎがある
記憶が取り戻された今

私は考え過ぎる傾向と恐れを特に
感じて他人を敬う傾向がかなり強いのを
身に染みて感じている

その自分自身を蔑むように誰かが言うのだ

お前は忍者になれない、と

私は1人今は彼らが長屋に居ない酷い現実と
甘くて辛かった両親の離縁の後悔と
いい子でいなくてごめんねと言う懺悔と
忍になれないのだろう。

と未来のお先真っ暗らな現実全てが重なり
この身体になって久方ぶりに
目からぽろぽろと大きな涙を沢山流した


この想いも涙と汗をかいてしまえば
流れて楽になれるのだろうかと
想いながら一人布団に包まれ
いつもより静かな夜の中に意識を投げ捨てた


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