惹きつけられないのが悪いのよ

 アズールとの例の一件は、当然ながらレオナの耳にも届いていた。元々、植物園での先の一件でユウの事を一目も二目も置いていたレオナからしてみれば、自身のお気に入りが他の魚共や草食動物共やトカゲ野郎の息の根がかかった連中に気に入られる事が、酷く不愉快だったのだ。
 だからこそ、そんな連中へ向けての牽制行為として、先日のサバナクロー寮生とマジフト部員での合同練習時の、テーブルに並んだ肉料理の数々や練習の合間に食べた肉巻きおにぎりなどをマジカメにアップした。ご丁寧にユウが調理している後姿の写真まで添えて。実家の方から、彼女との関係は?今度紹介しなさい、といった面倒な催促を喰らった事だけが唯一の誤算であったが、投稿のコメント欄に犇めく、他のムカつく連中の悔しそうな内容を見て、レオナは概ね満足していた。
 しかし、面倒だ何だと言いつつも何だかんだ気にかけて可愛がっている一年坊主二名の新着投稿を見て、レオナの機嫌は一気に急降下した。狼の一年坊主は、肉汁やら脂やらを滴らせるほどジューシーな肉(レオナには何の肉か写真では判断がつかなかった)に齧り付き、目を輝かせる写真や、恐らくその完成形を調理中なのであろうユウとのツーショットを写した写真を投稿している。もう一人の林檎の一年坊主は、恐らく一緒にメイクをしているのであろう、鏡に向かって共にポーズを取っているユウとのツーショット、それから先の写真の続きなのだろう、何処か互いに似せたメイクを完成させたツーショットを投稿していた。
 レオナはその二人しか一年生のフォローをしていなかったが、彼等のフォロー欄から辿って行った結果、ハーツラビュルの一年坊主二人とディアソムニアの一年坊主も同様にユウとのツーショットやら集合写真やらをほぼ同時に投稿している事が判明した。
 そして極めつけは、滅多に更新されることの無いユウのアカウント。彼女がマブと呼称する五人の一年坊主とグリムとで撮ったのだろう集合写真、それからオンボロ寮と思われる室内でパーティーを楽しむ姿が映された短い動画が投稿されたのだ。

 「…牽制のつもりか。」

 自分自身がドヤ顔でやった行為だというのに、それを他者、しかも後輩の一年坊主共にやられるのはクソほど腹が立つ。盛大な舌打ちと共にスマホをソファへ投げつけたが、質の良いクッションに受け止められたせいで、ボス、という鈍い音を小さく鳴らすだけで終わった。


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 エペル、ジャックを除くマブ達が盛大に拗ねた。それはもう盛大に拗ねた。グリムならまだ一緒に暮らしているし百歩譲って赦せるけれど、エペルとジャックはダメだろ。寧ろ何で俺達も呼んでくれねぇんだよ、とブーブー文句を言うマブに、ユウは微笑ましい気持ち半分、面倒な気持ち半分で取り敢えず、すまんの、とだけ返しておいた。赦してもらえなかった。
 自分達にも何か振舞って、差し入れして、と我儘を言うマブ達に、しゃーないの、と肩を竦めながら内心嫉妬するマブめちゃんこ可愛いな、と思いつつユウは早速招待状を作った。宛先は、当然今回盛大に拗ねているマブへ。因みにエペルとジャックにも送った。この二人を除外したら、今度はこの二人が拗ねるだろうから。
 そうして週末、ワタルが仕事で帰宅出来ないと知るや否や、ユウはマブ達に作成したお泊り会の招待状を手渡したのだ。俺達も肉が食いたい、というリクエストに応えて、コテチャンを始め様々な部位の肉で、オンボロ寮の庭にてバーベキューを開催した。この写真をアップしたらヴィルさんに締められる、と嘆いたエペルとは、ポムフィオーレ受けの良いメイク写真と双子コーデの写真をアップした。バチクソ盛った結果、バズりまくった。
 お泊り会の様子を短い動画にまとめた結果、こちらも大変おバズり申し上げた。元の世界ではメジャーなポフィンをマブ達に作ってもらった動画だったのだが、わちゃわちゃしながらそれぞれの個性が出る出来栄えだったからかもしれない。

 「あなたはどのブイズ派?」
 「ブースター一択。あったけぇし。」
 「僕はサンダースが良いな!元気だし棘のある毛がイカしてる!」
 「リーフィアだろう。僕とお揃いのミストグリーンが美しいし、空気も澄んでいる!」
 「僕は…グレイシア、かな。」
 「ブラッキーとは、何つーか、親近感が湧く。げっこうポケモン、だしな。」
 「ああ、ユニーク魔法繋がりで。」
 「おう。」
 「グリムは?」
 「イーブイ!モフモフだし、頼りになるんだゾ!」
 「なるほど。」
 「そういうユウは?」
 「みんな違ってみんな良い。」
 「それ狡くね?」
 「エースの言う通りだ。それなら僕だってシャワーズも好きだぞ。」
 「ああ。エーフィ―の美しさは、リーフィアに遜色つかない程だ!」
 「ニンフィアも可愛いしな。」
 「結局みんな違ってみんな良いってことで。」

 突然のブイズ談議になったのは、早めの夕飯を終えて談話室でまったりと駄弁っていた時に、楽しそうなユウ達の様子に我慢が出来なくなったニンフィアとサンダースがボールから飛び出してきたのが始まり。構え構え、と甘えてくる手持ちポケモンにノックアウトを喰らったユウがブラシを手にした途端、大人しく静観していた他のブイズ達も次々に飛び出してきたのだ。
 一人で九匹の相手を同時に行うのは中々しんどいため、ユウは早々にストックしているブラシをマブ達に持たせた。勢いに流されるままブラッシングをしていたマブ達であったが、ブイズは元の世界でもかなり人気の高いポケモンであるため、その美しさや可愛さに、マブ達も即座にノックアウトを喰らったらしい。ユウの丁寧なケアの賜物で、どの子もモフモフのフワフワのサラサラの毛を維持している事も相まっているだろう。
 そうして元気いっぱい好奇心旺盛なブイズ達に甘えられるがまま、夜も更けてきたというのに全力で談話室内を遊びまわった一同は、疲労が限界に達するなりそのまま挙って談話室にて雑魚寝で寝落ちた。暖炉の温かさと、ブイズはじめポケモン達の体温、そして親切なゴーストのオジサマ達による手厚いアフターケア毛布により、冬に近づくにつれ感じる肌寒さを覚える事も無く朝まで熟睡した。何なら遊び疲れてそのまま寝落ちしたから、少し寝坊した。
 マブ達よりも早くに起きたユウは、その惨状を見て、ワタル君にだけはバレないようにしようと固く心に決めた。幾ら気を許した、そんな邪な気持ちを微塵も持たないマブ達であっても、同年代の異性と雑魚寝しました、ともなれば、貞操観念が強く、更には独占欲もバリ強い竜王様はお冠になり兼ねない。
 しかしそんなユウの強い決心を瞬く間に無に帰されていた事に気付いたのは、連日仕事尽くしで逆にハイになったワタルに、強制的に担がれてキングサイズよりもデカいんじゃないかというベッドへ放り投げられた時のこと。マブ達と仲良く寄り添って雑魚寝する写真が、いつの間にかロトムの手によってマジカメとポケスタに投稿されていたのだ。

 「出逢って数か月の友人達と一緒に寝られるんだ。当然、俺とも一緒に寝てくれるだろう?」
 「ひぇ。」

 そんな会話がとある寝室で行われていたとか、いなかったとか。自分用に用意された小さなベッド(という名の籠)に大人しく収まった魔獣が、ご愁傷様なんだゾ、と密かに子分へ手を合わせていたとか、いなかったとか。真相は闇の中である。