万国に転生して、数年経った頃。
突如、私が万国から姿を消したらしい。

私の記憶にはないのだけれど…長く眠りについていたなーくらいの感覚で。目が覚めたら、初めてこの地に降り立ったときと、同じ場所にいた。

夢遊病でも起こしたものかと、ふらふらと自宅の方角へ歩いていると、オーブンさんを見つけた。

「オーブンさーーーん!」

私の声にビクリという、交換音を放ちそうな反応をしたオーブンさんが振り返り、猛スピードで私の目の前まで飛んで来た。

「ナマエ!!!!」
「飛べるんですね!?」
「お前、いつからここにいたんだ!?」
「え?んーー……今?」

わたわたと早口で、色々と質問攻めするオーブンさんに困惑しながら、とりあえずスイートシティに連行されて、今わたしの目の前には
ペロスペローさん、ダイフクさん、オーブンさん、クラッカーさん、ブリュレ、プリンが仁王立ちしている。あれ?カタクリさんがいない……

「私、どれくらい姿を消していたのでしょうか?」
「……二年だ、バカ野郎。」
「えーーーーーー!」
「本当に大変だったんだ……ペロリン…。」
「え?な、なにがですか?」
「お前が姿を消して、カタクリが限界突破をした」
「げ、げんかいとっぱ……なんですかオーブンさん、その禍々しい語呂合わせは……」
「危うく、万国が滅ぼされていたかもしれなかったんだぜェ、ペロリン…」

ああー。
確かになんか、荒れてたな、森の中も……。
丸裸だったもんな。木とかほとんど無かった、そう言えば。

「あのぉー…」
「なんだい、ペロリン」
「その……国を滅ぼし掛けた、張本人のカタクリさんは?」

私の言葉に、兄弟たちはチラリと目を合わせて溜息を吐く。

「…誰が報告するんだよ」

あからさまに嫌そうに言うのはクラッカーさん。
どうやら、国を滅ぼしかけるだけ荒れ狂ったカタクリさんを、遠征に追いやる事に成功した一同が、ほっと胸の撫でおろしていた矢先に、私がまた戻って来たのだという。
二年間も外に追い出せなかったカタクリさんの力って……恐るべし、最高傑作。

「戻って来るまで言わないって作戦はどうだ?」

出し抜けにダイフクさんの呑気な声が、室内に響き渡る。シン、と静まり返えったあとに重い口を開いたのは、クラッカーさんだった。

「……でも嘘ついたってバレたら俺たち……死ぬんだろう?」

クラッカーさんの溜めた声に、私まで背筋が凍り付いた。

「いや、いくらなんでもカタクリさん、皆さんを殺めるとかは…」
「馬鹿ね、ナマエは何も知らないからそんなこと言うのよ」
「あ、プリン!二年経ったならもう18歳?おめでとー!」
「あんた、ほんと能天気ね」
「はい?」
「すでに何人も犠牲者が出ているんだよ、ペロリン」
「えーーーーー(怖いって)」

やだ、怖い。海賊怖い。
シャーロット家の最高傑作おぞましい。

「……てか、どうしてカタクリさんそこまで…?」
「はァ?」

ダイフクさんが、もはや呆れを通り越して、怒ったような口調で聞き返して来たので、私は口を噤んだ。

「お前に惚れているからだろうが」
「…へ?ホレテイル…?誰が?」
「カタクリに決まってるだろ」
「えーーーーー!!待って待って、顔から血が吹き出そう!」
「火を吹け、バカが。」
「なんだ、知らなかったのかい、カタクリの気持ち。ペロリン」
「…はぁ……え、あの、何の話ですか?」
「ケッ、こりゃあ兄貴が不憫でならねーな」

オーブンさんに、ダイフクさん、ペロスペローさん、クラッカーさんから順に言われ、赤面する私に全員から哀れみの目線を向けられる。

そんなこんなで、なんだか大変なことを起こしてしまったのは私だと理解したので、直接カタクリさん本人に私が、電伝虫で伝えることになった。すぐにでも電話を掛けようとする私に、兄弟群は待ったをかける。

「待て待て待て、ペロリン」
「へ?なんですか?」
「急に掛けんなバカヤロウ!こっちにだって色々と準備が」
「なんの準備です?」
「いや、この城ごと吹き飛ばされかねねェ…海岸に行くか」
「ママの食い煩い時には、場所など関係なく破壊される…今の兄貴なら同等のことをやりかねないだろーがよ」
「ナマエだけ、ここに取り残してだな」

気高いシャーロット家の幹部連中の、情けない小競り合いにげんなりしながら、なんだかもう面倒くさいのでプルルルと、電伝虫を鳴らした。

『なんの用だ…………ナマエか!?』
「あ、未来を先読みしましたね?わかります?わたし、わたし」

さっきまで、細かい事をグチグチと気にしていたダイフクさんの、「ありゃオレオレ詐欺だぜ」と笑うヤジが聞こえたが、完全無視して、カタクリさんの返答を待つ。

『……』
「カタクリさーん?ナマエです、わか……」
『分かるに決まっているだろ!いまどこだ、なぜペロス兄の電伝虫から掛けて来た』
「あ、あのですね?私たぶん姿を消してまして」
『二年だぞ、どこで…何をしていた』
「ごめんなさい……私、なにも覚えてなくて」
『……いまスイートシティなのか?』
「はい……怒らないで聞いてくれます?」
『なんだ』
「もう何も壊さないって約束してから聞いてください」
『……わかった』
「もう誰も傷つけないって」
『わかった、だからなんなんだ』
「…カタクリさんに会いたいから、今すぐ帰ってきて」

室内で、あれこれとコソコソ作戦会議をしていた騒がしいみんなの声も、ピタリと止んだ。私の言葉に、カタクリさんが次に、なにを返すのか、皆、息を止めて待っている、そんな感じだった。

『すぐに戻る』
「……よかった」

他のみんなも、安堵した様子が、私も雰囲気で感じ取った。

『ペロス兄はいるか』
「あ、待ってくださいね」
「……なんだい、カタクリ」
『ナマエを地下の図書館に収監しておけ』
「えーーーーー!!?やだ!!」
『嫌だじゃねぇ!俺が戻るまで黙って閉じ込められていろ!』
「……わかったよ、そうしておくペロリン」

そのまま私は地下の図書館に向かった。不貞腐れる私を兄弟のみんなが、機嫌取りをしながら連行する。機嫌取りをするくらいなら、閉じ込めないでほしいとは、言わなかった。みんなの気持ちは、なんとなく、理解していたから。
それでも、図書館にいる間、そばにはずっと、プリンがついていてくれて安心した。

「ナマエがいなくて、だいぶ暇だったわ」

なんて言いながら、とても嬉しそうに笑うプリンを、素直に可愛いなって思った。

「…本当にカタクリ兄さん、大変だったのよ」
「なんか、申し訳ないことしちゃったな」
「私、言ったの、兄さんに。記憶なかったことにしてあげようかって」
「うん?」
「でも、カタクリ兄さん、消せないって」
「え…」
「ナマエとの記憶は…消したくないって…」

そう言ったまま、プリンが言葉に詰まって大粒の涙を流した。つられて私も涙が溢れて来て、早く……早くカタクリさんに会いたいなって思った。

カタクリさんの顔を見たら言おう。
『好きです』って、目を見て。
ちゃんと真っ直ぐに伝えたいなって思った。





願うのは、ひとつだけ

きみと一緒に大人になりたい