「…………」

おかしいと思いませんか?
来る今日、12月24日。
世の中はすっかりクリスマスムードだっていうのに、ダイフクさんから仕事を押し付けれられた。

ペロスペローさんは気を遣ってくれて、今日は好きに過ごしなさい(ペロリン♪)と、仕事を与えず幹部室を出ていったのに…。
それを待っていたかのように部屋に残っていたダイフクさん。「これ片付けといてくれ」と大量の書類を渡された。クリスマスに幹部室で仕事だなんて!!


「死ね……書類整理なんか死ね……!」
「こら。女がそんな言葉使うんじゃねぇ」

隣で呻く私を、小さく小突いたのは、私と同じでクリスマスだっていうのに、私の御守りをダイフクさんから言い渡された、カタクリさん。

「ダイフクさんはなんもわかってない!若者にとってクリスマスってのがどれほど重要なのか!」
「とりあえず終わらせないと帰れないんだろう」

カタクリさんはもっともなことを言うけど、そういうカタクリさんだって、その手に持っている本のページ、全然進んでないんだから。

「カタクリさんだって全然進んでないじゃないですか、その本」
「……まぁ、まだ帰れないからな」
「私のせいか……」

カタクリさんはコムギ島の大臣。島に帰ったらみんなでクリスマスパーティするのかな。それとも家族で集まるのかな。だったら何で御守りなんて引き受けたんだろう?あ、ペロスペローさんを煩わせたくなかったのかな、連絡してたらきっと戻ってきてくれていたであろうから。なんて一人で推測。

「そんなことを言っているが、どうせナマエも一人なんだろう」
「やかましいですよ!カタクリさんだってどうせ家族と過ごすんでしょ」

二人で睨めっこ。
カタクリさんの流し目に、私はぎんぎんに目を光らせて睨む。

「なにを頑張って睨んでいるんだ」

カタクリさんはそう言いながら、ふっと息を漏らして目を細めた。どきっとしたのを悟られないように、視線を逸らす。

「ふーんだ。あ、てかカタクリさん笑った!負け負け!」

私がべっと舌を出すと、勝ち負けなんかないだろうって、カタクリさんは呆れたような溜め息を吐いた。

「カタクリさんは彼女とかいないんですか?」
「なんだ、いきなり」

手に持っていた本をようやく1ページ捲って、カタクリさんは聞き返す。そりゃいきなりだけどさ。何か気になったんだよね。カタクリさんは比較的、いや私の個人的な見解だけども、かなりかっこいい顔してると思う。
正直、カタクリさんのことを大臣とか、将星とか、幹部とか抜きにして異性として好きな人って、絶対死ぬほどにいると思うし。家族以外にも。

「てか、カタクリさんって家族の女性としか話さないイメージ」
「そうか…?……そうでもない」

だって、家族以外の女性は、私と話しているところしか見たことないんだもん。

「じゃあ、誰と話すんです?てか、あんま女性と話さないですよね?」

私はなぜだろう、
なんだかムキになって問い質す。

「確かに自分から話しかけたりはしない。あまりな」

カタクリさんは、本を閉じて、ゆっくりとテーブルに置いた。私はその置かれた本を手に取り、パラパラと捲ってみる。カタクリさんはその様子を見て、ふっとまた息を漏らした。

「カタクリさん……あのさ」
「?」

手に取った本を、とにかくパラパラと捲り続ける。そうでもしなきゃ落ち着けない。

「私とは喋りますよね…」
「………」

確信があったから訊いたのかもしれない。
カタクリさんを見ると、

「!」

目が合った。
目を逸らそうとすると、

「わかってるんだな」

なんとも言えない表情で、カタクリさんの胸の前で組まれていた腕が解かれて、その手が私の髪に触れる。

「……まじなの、? え。え、」

私がしどろもどろでカタクリさんに問う。

「さぁな、ナマエはどうなんだ」

カタクリさんは意地悪に、答えを流す。

「思わせぶりならいらねェ」

そう言ってカタクリさんは正面に向き直って再度、胸の前で腕を組んだ。

「………っ」

ずるくない?
や、ずるいよね?

私も正面に向き直る。
中途半端に開きっぱなしになっていた本の中身に視線を落とす。分厚いし、難しそうな内容の本。文字も細かくて私には、なんにも理解できなかった。

カタクリさんは、右にいる私に右手を差し出す。素直にそのまま本を返せばいいのに、返したくない。そのままあっさりカタクリさんに何かを渡したくなかった。

だって、私を困らせるんだよ?
カタクリさんもちょっとは困ってよ。

「返せ」
「ヤ、です。」

私はカタクリさんを見ないように、右を向く。

「返せ、ナマエ」
「ヤダっ」

私は左手に本を持ったままソファから立ちあがる。馬鹿みたい。なにムキになってんだろ。

驚いたことに、カタクリさんに左手首を掴まれた。思わず身動ぎすると、カタクリさんがクイッと、私の手首を引いた。座れと言っているんだろう。

ああ、私ってこんなに馬鹿だったんだね。
恥ずかしい。なにやってんだろ。
せっかくのクリスマスなのに。

欲しいのは、本なんかじゃないよ。


「………っひゃ、」

急に私の腕を掴んでいたカタクリさんの長い右手が伸びてきて、私の右耳に触れた。驚いたから思わず目を瞑ってしまう。
カタクリさんは無言のまま、私の耳をゆっくり撫でていく。耳の裏とか耳朶とか、
確実に私を犯していく。

「そういう声、出すのか」
「………!」

恥ずかしすぎる。
涙が滲む。

カタクリさんは私の左手から、本をゆっくり抜き取った。

「………や、」

たったそれだけのこと。
なのにおかしいくらい不安になって、なぜか声を出す。

「クリスマスだろう」

カタクリさんが、ぽつりと呟いた。

「こんなもんより、いいもんやる」
「──────ふっ」

急に、
噛み付くようなキス。

午後4時を過ぎて、暗くなりゆく室内。
嘘みたいなシチュエーションで、いつ誰が戻ってくるかもわからない状況で。

口唇が離れてから私は、どうせ元々不細工なのを涙で余計不細工にしてしまった顔を晒して言う。

「カタクリさん、私のこと好きなんですよね……?」

カタクリさんを見る。
無言のまま、彼は目を細めた。
我慢できなくなって、私は彼に抱き付く。

「悪かった。言わせたな」
「やだ!もう!」
「すまない」

広い彼の胸を存分に借りてやる。クリスマスくらい多めにみてよね。



「おい!お前ら抱き合ってないで仕事やれよ!」
「ダイフクか…」
「ぎゃー!ダイフクさん!なに見てんですか!!」

突如、幹部室に入り込んで来たダイフクさんに、ぱっとカタクリさんから離れて叫ぶ。

「お前らラブラブなのもいいけどな、それ終わらないと帰れないんだぜェ?」
「うるさいよ、もういいから!出てってくださいよ!てか、ダイフクさん自分でやってよ、コレ!」

ダイフクさんが教える現実に、恥ずかしくてあたふた、部屋を出て行くよう促す。

「俺は別に帰れなくてもいい」

カタクリさんのひと言に、その場の空気が止まる。

「こ、こらー!」

私が顔を真っ赤にしながら言うと、傍に寄って来たダイフクさんは、大口をあけて大笑いした後、馬鹿野郎と呆れた顔をしてカタクリさんを突いてみせた。

「なんだ」
「…ま、いいからさっさとやっちまえナマエ。せっかくのクリスマスなんだからよ」

お前が言うな!
とか思ったけど、私まで突かれたくなかったので黙っておく。

「ったく…ガキのくせして色気づきやがって」

とか、なんとかぶつくさ言いながら、ダイフクさんは幹部室の入り口に向かって歩いて行く。するとカタクリさんが、私の肩を軽く叩いた。何かと思って振り返るとグッと肩を掴まれ寄せられた。

「メリークリスマス」

なんて小さく呟いて、小さくキスをする。

「!!?!?」

私が真っ赤になって口を押さえると、ちょうどダイフクさんが扉の横の壁に備え付けられている電気のスイッチを点けて、こっちを見たときだった。

「門、閉まるの6時だからなー」

私が1人で恥ずかしがってるうちに、カタクリさんは「わかっている」なんて、素知らぬ顔でダイフクさんが出て行くのを見送っていた。

扉が閉まると、途端にしんとする幹部室。
私は腰砕けになって、ヘナヘナとソファに座る。
やばい、気まず過ぎる。

なに話そう?と、頑張って脳味噌をフル回転させていると、カタクリさんが小さく溜め息をついた。そして私の服の襟を両手で正してくれた。

「そういえば」
「ん?」
「ナマエも俺のことを好きだと思うんだが」

彼はそんなことを呟いた。

「えっ?……自意識過剰?」
「……無自覚なのか、お前」

私が言うと、カタクリさんにそう返された。

「安心していたくせによく言う」
「な、なにがですか」

 "家族の女性としか話さないイメージ"

「………」
「認めるなら、もれなく俺が彼氏になってやってもいい」

テーブルに上がっていた自分の万年筆で、手配書の空いたスペース(四皇バギーって人のやつ)にぐりぐりと、のの字を書く。

「わかりましたよ……」
「じゃあ決まりだな」

カタクリさんの腕が、優しく私を包む。

「なんか変なクリスマス」
「ん?お前が言うな」

そう言って、彼は苦笑した。

「よし。じゃあこれ片付けてさっさと帰るぞ」
「わ!カタクリさん真面目!」


聖なる夜は、これからだからね。





ショートケーキのイチゴのように

真っ赤な頬