「カタクリぃ〜」

向かい側のソファに座って、全く仕事のペースがあがっていないナマエが俺を呼んだ。

なぜこいつは、こんな甲高い声を出しているのだろうか。そう思いながらも、律義に返事を返した。

「…なんだ」
「ペロスペローさんのマネ!似てた?」

どこがだ?とは言えない。
機嫌を損ねるとめんどくせぇことは、兄弟の仲でも彼女と特別近しい自分が一番知っている。

ナマエとは、出会ってから今日までこうして時間を共にすることが多かった。ペロス兄たちも、俺に彼女の監視役(御守り)を任せて来るので、関係が深まるのは自然のことだった。

麦わら海賊団の不法侵入後、いまとなっては体面が保たれていて、すっかり万国は日常を取り戻していた。それでもナマエは、いまだ麦わらたちのことを話題に出してくる。
なぜかって、それは。


「ねぇねぇ、クラッカーさんの調子は最近どう?」


クラッカーにお熱なのだ。
これ、ありえないが本当の話。

「クラッカーより、俺の調子を心配しろ」
「カタクリさんは超人なんでしょ?まぁ負けたけど」
「ぐっ……」
「知ってるよ。内に秘めた優しさが仇になったね!」

ふふん、と笑うナマエに鉄拳をくらわせたい。
けれど我慢。ギャーギャーと喚かれたくない。

「クラッカーのなにがいいんだ?」

珍しくこちらからそう問うと、彼女はパアッと表情を光らせた。鬱陶しい。口に出しては言えないけれど。

「なにって、まずあのウブなとこでしょー、あと眉毛ないからジャリジャリしてるとことかー」

嗚呼、全てにおいて完璧な男・カタクリ。
間違いを犯した。なぜこんなことを聞いてしまったんだ俺は。
案の定、ナマエはベラベラと、クラッカーのいいところを喋りまくっている。

「呼んだら顔真っ赤にして走ってくるとことか犬みたい!もうたまんないっ欲しいっ!」

きゃーっ!と、テンションマックスのナマエは叫び、俺の背中をバシバシ叩いた。激しく痛い。

というか、犬…。
どうやら好きという訳ではないらしい。
憐れだクラッカー。お前は当分、ナマエのオモチャだな。





恋する乙女は、ただの阿呆だった