「ということで罰ゲームだ!」

幹部会終了後の幹部室内、ペロス兄の席と並ぶ俺の席から見えたソファには、ダイフクにオーブン、クラッカーにナマエがいまだ座ったまま談笑していた。そんな中、ダイフクが高らかに告げるのは本日の罰ゲーム。

先週のあたま、珍しくクラッカーが幹部会に顔を出していて、よく幹部会を無断で欠席するクラッカーが、残りの三日間は、何回こうしてスイートシティに出向くのか、という掛けをしようと提案していたダイフク。

ナマエは3日、ほかの奴ら(ダイフク、オーブン)は0日と予測。
0日はないだろ!と、クラッカーはぼやいていたが、まあ俺も、0日はさすがにないだろうな、と思っていた。

「カタクリさんとペロスペローさんもやりましょうよー!」と、その日ナマエが、俺とペロス兄の座る席に向かって声を張ったが、ペロス兄は「いや、遠慮しておくよ」と断り、俺は見向きもせずに否定の意思表示として片手を軽く翳した。

そうしたら、本気で一日も参加しないことなるとはな、本当にこいつは。
今日はその先週を開けて、もう二日目になるのだ。



「ぐぬ…きょ、今日はちゃんと来ただろうがよ!」
「今週はもうカウントに入ってねーんだよ」
「そもそも開始時間が早すぎるんだよ、誰だァ?こんな早い時間から開始するって決めたお仕事大好き人間はよォ…」
「俺だ」

静かに俺が呟くと、びくんと、ナマエ以外の兄弟が肩を強張らせた。ナマエが「カタクリさん!覇気、覇気!」とソファに座りながら、こちらを振り返って両手で宥めるような仕草をする。

「ま、まァ、ビスケット島はちと、遠いからな」

兄弟にどやされながら、クラッカーが悔しそうに言い訳をしている。
そんな中、テーブルにあがったままになっていた、クラッカーが自ら作り出した棒状のビスケットの菓子を、ダイフクが取り分けして、皆へ、ずいっと差し出す。

「??」と、はてなマークが浮かぶ兄弟とナマエに、ダイフクはニヤリと微笑み、

「今日はポッキーゲームだぜ!」

なんて言った。

「えええ!?」

叫ぶナマエに、冷静にオーブンがダイフクに向けて、「ポッキーゲームはひとりじゃできないだろ?」と意見。
そーだそーだ、とナマエとクラッカー。
そもそもポッキーゲームとは、なんなんだ。

「ペロス兄」
「んん?」
「ポッキーゲームとは…?」
「ああ、なんだかナマエちゃんが命名した、なんというか、こう……棒状のお菓子をだな、こう、銜えて……」

質問した俺に、ペロス兄は身振り手振りで教えてくれたが、よく理解できなかった。すまねぇ、ペロス兄。やらせておいて。

すると、フッフッフとダイフクは不敵に笑う。

「ナマエとジャンケンして負けたやつがナマエとポッキーゲームだ!」
「いやあああ!」
「「ぎゃははは!!」」

ダイフクが棒状のビスケットを振り回し、ナマエが叫び、ほかの二人は大笑い……ペロス兄は呆れたように溜息を漏らしているし、俺だけが困惑していた。

「ほれほれ!さっさとジャンケンするぞおまえら!」
「や、やですよ!なんで私が!」
「罰ゲームだからだよっ」

今はダイフクが悪魔に見えているのだろう。顔面蒼白のナマエが固まっていた。

「オイ。ペロス兄、カタクリ」
「?」

首をぐいっと仰け反らせたダイフクが、俺とペロス兄を呼ぶ。

「人数が少なすぎる、ジャンケン混じってくれ」
「……カタクリが行け、ペロリン」
「は、」
「じゃあカタクリだけでもいい、さっさと来いよ」

いまだ困惑状態の俺をソファへ促すように、ペロス兄が顎をクイっと、動かす。

「行ってやれ、カタクリ」
「な、なぜだ」
「いいから、ペロリン♪」

ペロス兄の指示ならば……仕方あるまい。
俺は席を立って、大きくスペースの空いていたナマエの隣に腰を下ろして、足と腕を組んだ。

「じゃーいくぞ、最初はグー!」

ダイフクの掛け声に、オーブンとクラッカーが楽しそうに、ナマエはこの世の終わりみてぇなツラして片手を目の前に差し出す。

「……カタクリ」
「あ?」
「おまえも」

ダイフクに諭され、少々ぎょっとしたが、はぁと溜息をついたあと、組んでいた腕を解いて、軽く右手を指し出した。

「「「ジャンケンポンッッ!!」」」

『あ』

全員が凝視するジャンケンの結果。
ナマエはグー、オーブンがグー、クラッカーがパー、ダイフクがグー、俺はチョキ。

『……!!』

俺が負けた。
なんとなく全員の背中に悪寒が走ったように見えたのは気のせいじゃないだろう。なぜだか知らんが。

「負けか」

俺はすっと、手を引っ込めて、また胸の前で腕を組んだ。

クラッカーが「チッ」と舌打ちをして、そのあと大きく溜息を吐いていた。
オーブンは、ナマエに「よかったなァ」と言っているし、ナマエは顔面蒼白だったのが、いまでは真っ赤に茹で上がっていた。
ダイフクがヒヒヒと笑いながらビスケットを俺に渡してくる。

「それで、」
「あ?」
「ポッキーゲームとは、どんなことをするんだ」

俺がぽつりと漏らすと「おまえ知らないでジャンケンしたのか」と、オーブンがやれやれといったふうに苦笑した。

「ポッキーゲームっつーのはな、宴とかでよくやるおふざけゲームのことだ」

ダイフクが目の前に置かれた紅茶を手に取って、品のない音で啜りながら言う。

「こうして、互いに口に銜えて、両方から食っていくやつだ」

オーブンがジェスチャー付きでやってみせる。
今度はわかりやすかった。さっきのペロス兄のは本当に酷かったが。なるほど………は?

「か、カタクリさん、別にフリだけでいーですからねっ!?」

ナマエがあわててそう言うと、ダイフクは「それじゃノリ悪いだろ」と、両手をソファの背もたれに豪快に伸ばして、口角をあげて笑った。
なんなんだ、その不条理な言い分は。

「よし、じゃー俺が止めって言うまでな」

ダイフクがニヤニヤしながら言い出す。

「は、はい…」

ナマエが、そっと俺の手からビスケットを取り、そう答える。

「お、おい……本気か」
「しつけーぞカタクリ!いいじゃねーかクラッカーとやるハメになんなくて!」

俺の最後の抗議に、ダイフクが笑いながら答えて、クラッカーが「兄貴!どーいう意味だそれ!」とダイフクに食ってかかる。オーブンはそれを見て、ガハハと笑っている。

「そんなマジになんなよカタクリ、な!」

ダイフクが、やっぱりニヤケ顔で言う。
そんなこと言われてもな…。威厳が、俺の威厳……

「まいったな」
「ホント、ふ、フリでいいですからね…?」

困惑する俺に、苦笑いしたナマエがビスケットをはむっと銜えた。

「ま、待て」
「ホレ、くわえろくわえろ!」

逃げようとする俺を、俺とは逆側のナマエの隣に座っていたダイフクが、手を伸ばして来て俺の太ももを抑えて阻止する。仕方なく、ビスケットをくわえるはめになった。

「目をつぶれよ」

オーブンの声に、二人で目を瞑る。
い、いいんだ、フリで。適当で。

ヒューヒューと、ギャラリーの煩せェ声がする。うるせえ、おまえら…!あとで息の根止めてやる……!容赦はしねェぞ…!



「「せーのっ」」



 パ キ ン ッ !


「「おん、?」」

ダイフクとオーブンの、スタートの合図が聞こえたと思った刹那───

はっと目を開けると、目の前には真っ二つに折れた棒状のビスケット。

「「「うあーーっっ!!!」」」

ギャラリーが一瞬にして絶叫。

俺の口に残されたビスケットを、ナマエがパッと奪い取って、自分の分も取って。

「バッカ野郎たちがぁー!できるかこんな恥ずかしいのっ!!」

ギャーギャーと赤面しながらナマエが言って、勢いよく立ち上がると、そのビスケットを皆に投げつけた。

「ぎゃあああ!」
「はははは!なにを照れてんだナマエ!」
「ダッセーな!!」
「うるさいアンタたち!!こんな罰ゲームあるかぁ!!!」

バシバシと叩いて回るナマエから、一目散に、幹部室から逃げ出すクラッカーと、ダイフクを、ハヤブサの如く追いかけて行ったナマエ。いまだガッハッハッと、オーブンの笑い声が幹部室に響く。ぽかんと呆ける俺、とペロス兄。

そして、しばらくして。
ペロス兄も一緒に笑い出した。

「ホントにいいヤツらだなァ、ペロリン♪」

ペロス兄が、ニッコリ笑顔でそう言った。





ポッキーゲーム

そのゲームの名は